第732話 厄災襲来
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(イタル。にーちゃんは、頑張ってるぞ。後は、ゼンビンをどうするかだ)
異世界クマ国の代表カムロに引き立てたられた臨時司令官、左玄チョウコウが〝完全正義帝国〟の勢力圏、その奥地に入り込み、包囲殲滅されるリスクを背負いながらも敵拠点を次々と焼き払ったのには理由があった。
元々〝完全正義帝国〟の輸送隊長だったチョウコウは、それ故に幾人かの武人のデタラメな強さを熟知しており、直接交戦することを避けたかったからだ。
作戦開始からの七日間、チョウコウ率いる強襲揚陸部隊〝北府隊〟は、水陸両用の大型車両ホバーベースを用いた一撃離脱戦法に終始することになる。
「司令官、もう次の目的地に向かうんですか?」
「ああ、バンジュちゃん。完全正義帝国にも厄介な指揮官が何人かいてね。たとえば特務将軍ダンキンは、〝砂丘〟と呼ばれる、よくわからない砂とガスを使って敵の位置を把握したり、透明になって奇襲したりできるらしい」
チョウコウの返答に対し、副官であるふわふわの桃色髪を縦ロールにまとめた鴉天狗の少女、葉桜万寿は両頬に手を添えて目を丸くする。
「〝砂丘〟。と、とんでもない兵器ですね。ひょっとして〝完全正義帝国〟が反乱を起こす前に所属していた、〝前進同盟〟のオウモ様が調整されたのですか?」
「ああ。そこからさらに、八岐大蛇・第六の首ドラゴンリベレーターが手を加えたともっぱらの噂だ。あのドラゴンは表に出てこないくせに、屍体人形をはじめ妙な技術を持っているんだ」
チョウコウは、自身を見上げる万寿の儚げな横顔を見て思わず抱きしめようとしたものの、命の危機に瀕した今、色恋どうこうを考える余裕はないと奥歯を噛みしめて踏みどどまった。
「そういった特殊な〝鬼神具〟の使い手ももちろん怖いんだが、俺が一番会いたくないのは、やはり前線指揮官のゼンビンだ。
刀を使った物理攻撃しかできないが、阿呆みたいに怪力で、技も苛烈ときた。
まともにやりあえるのは、クマ国総大将であるカムロさんか、噂に聞く出雲桃太一行くらいだろう。このままアイツを炎で封じ込めて、別のところで勝つ。それが俺の考え出した必勝の作戦だっ!」
チョウコウは部下達を急かして川面に浮かぶ、バスに似た大型車両ホバーベース〝北府号(北部号)〟へのせ、〝完全正義帝国〟の支配圏からの脱出を図った。
この時、前線指揮官であるゼンビンは船の大半を失って河川の移動が困難な上、炎によって陸路の進軍も制限されており、神出鬼没の奇襲攻撃ができなくなったと思われていたのだが……。
一一月二二日の昼、状況は一変する。
「司令官。白くて短い髪の、背が高い男と、大量の屍体人形が追いかけてきます」
「もう追撃がきたのか? しかもその外観って、まさか……。バンジュちゃん、急げ!」
そう、チョウコウが懸念したとおり、災厄はすぐそばまで迫っていたのだ。
「何を急いでいるのだ。チョウコウ、いや今は姓を取り戻して左玄チョウコウと名乗っていたか。あちこちでずいぶんとやってくれたじゃないか、もう少しおれと遊んでいけよ」
「ゲェ、ゼンビン。おいおい、なんでこっちに来るのさ? 俺、何か悪いことでもしたかい?」
チョウコウは、ヒスイ河の支流の向い河に立つ、幽鬼のように青白く、枯れ枝のように細いものの、身長二三〇センチを誇る高身長痩躯の青年、ゼンビンに声をかけられて冷や汗を流した。
「悪いこと、か〝完全正義帝国〟を裏切ったことをはじめ、我々に都合の悪いことは山ほどやっただろう? チョウコウ、祖先の誇りを忘れたか?」
「ゼンビン、アンタのやっている身内殺しや民間人虐殺のどこが祖先に誇れるっていうんだ? そもそも俺たちの家の証明である姓を奪ったのは、長老達で、アンタもその被害者だろうがっ」
あとがき
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