第730話 チョウコウの火攻め
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「コウエン将軍、アカツキ隊長、〝完全正義帝国〟が使う屍人を使った不死身の兵器は脅威だ。数は多く、壊れてもすぐに修復される。そんな連中を討つ良い方法がある。火攻め、いわゆる火計だよ」
異世界クマ国代表カムロにスカウトされて、今やクマ国軍の司令官代理となった茶髪天然パーマの青年、左玄チョウコウが〝遠隔通神〟用の鏡越しに作戦を伝えるや……。
陸軍を統べる白髪の老将軍、芙蓉コウエンと、黒い翼を持つ若き特務隊長、甲賀アカツキは目を丸くした。
「「あれだけごねておきながら、やる気満々じゃないか!」」
二人の反応に対して、チョウコウはすねたように目を逸らすが、話は終わることなく質問攻めにされる。
「……なるほど、炎で浄化すれば屍体人形も、別の部品を使って再生することが困難になる。だが、火をつけるのは、わしはやりたくないぞ。制御できなくなると我々まで巻き込まれてしまう」
「火計を用いるのならば、我々特務部隊から、葉桜万寿という新進気鋭の指揮官と、風術に長けた鴉天狗や、水術に長けた河童の兵士を貸し出しましょう。消火にも逃亡にも使えるはずです。とはいえ、自国を焼くというのはぞっとしませんね」
結果、一応の同意は得られたものの、コウエンもアカツキもリスクの高さを鑑みて、半信半疑といったところだった。
「そうは言うが、屍体人形が撒き散らす毒に汚染された街や里は火で浄化しないと利用すらできないだろう。それに無闇やたら火をつける必要はない。重要拠点を狙い撃ちにすればいいのさ。まずは俺がやるよ、幸か不幸か、前の職場のおかげで目星をつけられるし、〝内部空間操作鞄〟も入手できた。この上、ホバーベース〝北府号〟も加えれば鬼に金棒ってやつだよ」
チョウコウは、テロリスト団体〝完全正義帝国〟で輸送隊長をしていたこともあり、彼らが使う陸の補給路を熟知していた。
「じゃあ行ってくる」
それから二週間後の一〇月一五日。
ついに作戦決行日がやってくる。
「司令官。敵地深くへ侵入するのはリスクが高すぎますよーっ」
アカツキが抜擢し、新たにチョウコウの副官となったふわふわの桃色髪を縦ロールにまとめた鴉天狗の少女、葉桜万寿が釘をさすものの……。
「あーっ、チョウコウ隊長は輸送隊時代に何度もやってきたから問題ないさ」
「そうそう、いつも似たような無茶なタスクをこなしてきたから慣れたもんさ」
カムロに降伏後、改めてチョウコウの元へ配属された輸送隊員達は、余裕綽々といった態度だった。
「バンジュちゃん。俺たちクマ国軍と違って、〝完全正義帝国〟が保有する戦力の九割は、死体を加工した人形だ。リノーのような例外ならいざ知らず、操り人形を何万と持っていても、使いこなせるかは別だ」
チョウコウの語る見立ては正しかった。
〝完全正義帝国〟は屍体人形で水増しして、見た目の兵数こそ多いものの、索敵、交戦、撤退などを判断する将には限りがある。
「この火薬壺は、異界迷宮カクリヨの陸を泳ぐ魔鯨からとった脂を利用していて、よく燃えるんだ。取り扱いに注意してくれよ」
チョウコウが指揮する強襲揚陸部隊は、ホバーベースを使って川から接近。隠された拠点に忍び入り、武器や食料を補給中の敵部隊に〝内部空間操作鞄〟から取り出した大量の壺型爆弾を放り込み、さらに火球や雷矢といった鬼術を嵐のように打ち込んで起爆させた。
「そーれ、ぽちっとな」
チョウコウの気楽なかけ声とは裏腹に、轟音が鳴り響き、休眠状態にあった屍体人形はもちろん、加工用の糸までが炎にまかれて消えてゆく。
「「なんだ、なにがどうした?」」
「「GAAA!?」」
あとがき
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