第729話 チョウコウ、参戦を決める
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「コウエン、アカツキ。悪いがお前たちにも命をかけてもらう。もう一度言うぞ。〝完全正義帝国〟を倒すため、新たに強襲揚陸部隊を設立し、僕の代理となる臨時司令官として左玄チョウコウを任命する。彼の指示に従い、この乱を鎮めろ」
異世界クマ国の代表たる、牛頭の仮面を模した足の見えない幽霊カムロが命令をくだすや……。
「主命承りました。わしは左玄チョウコウは信じられませんが、カムロ様の目を信じましょう」
「芙蓉イタルさんの活躍を映像で見ることもできました。貴方が彼の友として恥じない男であることを期待します」
クマ国陸軍を束ねる白髪の将軍、芙蓉コウエンと、空水軍を統括する背から黒い翼が生えた鴉天狗、甲賀アカツキは、〝遠隔通神〟を媒介する大鏡の中で、それぞれ頭を下げた。
「「左玄チョウコウ司令官代理、ご命令を」」
両者の対応に面食らったのは、言うまでもなくチョウコウだ。
「いやいや、戦略カムロ、戦術カムロ、戦闘カムロの三本柱でいいでしょう。なんでまた裏切り者なんかに指揮を任せるんです?」
「さっきも言っただろう。僕はコウナン地方南部の長老達を抑えるので手一杯だ。なんなら代わりに、あの外道どもご使役する〝陸竜人形〟退治をやってくれてもいいんだよ?」
カムロが仮面の下からのぞく口元を悪戯っぽく緩めると、チョウコウの顔色はさらに悪くなった。
「無茶言わないでくれ。〝陸竜人形〟は、都市ひとつを簡単につぶせる怪物だぞ。そっちを相手するのも勘弁だ!」
「ならばチョウコウ、せっかく芙蓉イタル君が盤面を整えてくれたのに、台無しにするつもりかい?」
「う、それは……」
チョウコウだってわかっている。
イタルが自身に期待して、ここまでの盤面を整えたこと。
そして、幼い弟分がそうせざるを得ないほどに、自分たちが追い詰められた状況にあることを。
「チョウコウ。このままでは、戦後に〝完全正義帝国〟からの投降者や関係者の扱いがまずくなるのは間違いない。
おそらくは、君が守りたい子供達の未来も、嫌悪と憤怒という暗雲に閉ざされることだろう。晴らしたければ、戦いたまえ。それとも君は、桃太君の隣にいる幼いイタル君だけに荷物を負わせる気かな?」
「……」
チョウコウは、既にカムロに王手をかけられていたのだと自覚した。
白と桃色の貝殻が見せた二つの記憶映像は、コウエンとアカツキに発破をかけると同時に、彼に覚悟を促すためのものだったのだ。
「チョウコウ、君が活躍することでクマ国人は君たちを同胞と認め、たいした奴らだと喝采をあげるだろう。芙蓉イタル君はその為に骨を折ってくれているし、色々と手紙で指南していることも知っている。彼の好意を無碍にするのかい?」
「くっそお、やっぱりこのジイサンは性格が悪いよ。世が世なら悪徳君主とか言われてもおかしくないよ。やってやる、やってやるさ」
こうして、カムロに半ば脅される形でチョウコウは、コウナン地方東部と西部の戦線を任されることになった。
「コウエン将軍、アカツキ隊長、〝完全正義帝国〟が使う屍体人形は脅威だ。数が多く、壊れてもすぐに修復される。そんな連中を討つ良い方法がある。火攻め、いわゆる火計だよ。連中の進軍路も補給路も把握しているから、やり方次第で一掃出来る」
あとがき
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