第71話 親友の仇を討て
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「うるせええええっ」
豹口鬼となった黒山は激情の赴くままに、広間の岩盤を殴りつけた。
彼の肉体に刻まれた入墨が赤く輝き、地表に三角形の魔法陣が展開。
あたかも船幽霊の手の如く、桃太を取り込まんと一〇〇を越える黒い手が伸びた。
「これが〝鬼の力〟、選ばれし者の力だ。お前も凛音のように我が道具となるがいい!」
桃太の恩師、矢上遥花を〝夜叉〟に変え――、
同期学生の伏胤健造を〝鰐憑鬼〟に堕とすキッカケとなり――、
代表の三縞凛音を〝炎猫鬼〟へと堕とした――。
黒山の力こそは、他者に不幸を撒き散らす彼のあり方、そのものなのだろう。
「こんなコケ脅しが通じるものかっ」
されど、額に十字傷を刻まれた少年は、鬼の力に対抗する〝巫の力〟を発揮。両目を青く輝かせながら、左手に作り上げた水のドリルで片端から粉砕し――。
「勾玉は昔から魔除けのおまもりだった。水は汚れを流し清めるおしるしだった。お前の呪いなんて効かないサメエ」
更には、仮面となった紗雨が翡翠の勾玉から白銀の光を発し、粉々になった黒い手と魔法陣の残骸を消し飛ばす――。
「世間知らずのガキに、大人のルールって奴を教えてやろう。昔がなんだ、過去がどうした? 世界のあり方を決めてきたのはいつだって絶対権力者だ。この空間を支配しているのは、わしよ。新しい未来を築くためには、お前達はいらんのだ。消え去れええっ」
一方の黒山は、馬鹿の一つ覚えのように魔法陣から黒い手を生み出し、あるいは空中に岩を転移させてぶつけようと繰り返すだけだ。
「黒山犬斗。お前は、哀れな奴だな」
「世界を呪い、否定するだけの貴方に新しい未来なんて作れないサメエ」
「〝鬼の力〟も使えぬ劣等生と、ペットモンスターがあああっ!」
桃太の瞳が青く輝き、紗雨の勾玉が銀色の光を発する。
「紗雨ちゃん、呪われたこの空間を切り裂こう」
「桃太おにーさん、押し流してキレイキレイにするサメエ」
「「必殺、銀鮫竜巻落とし!」」
桃太と紗雨は力を合わせ、勾玉から白銀に輝く巨大な水の竜巻を生み出した。
浄化の水柱は、数百もの岩と数千もの黒い手を破壊しながら、半獣の魔人〝豹口鬼〟を、空中にうちあげて幾度となく大地に打ち付けた。
「おのれおのれおのれ、出雲桃太。呉のガキを殺したように、あの時始末できていれば!」
「黒山犬斗。今、引導を渡してやる!」
サメの仮面を被った少年は、全長五メートルに及ぶ豹頭の魔人を穿ち抜き、隠れひそむ潜む髭男の胸板を水のドリルで貫いた。
「リッキーの仇、確かに取ったぞ!」
「こんな、こんな最期なぞ認めんぞおおっ」
黒山は鮮血を発しながらも、最後の足掻きとばかりに、義足から七発の銃弾を撃ち放つ。
しかし、すでに種の割れた手品だ。桃太にはかすりもしない。
「まだ、だああ。言葉が世界を決めるのだ。現実も事実も知ったことか。わしは、嘘をもって真実を塗りつぶす!」
しかし、残された最後の一発を、〝豹口鬼〟に飲み込まれた男は、自らに向けて放った。弾丸に込められた呪いが、彼を更なる悪鬼へと暴走させる。
「舞台蹂躙、役名変生――〝大蛇〟! わしは最強の存在だあ!」
あとがき
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