第722話 出雲桃太と建速紗雨、見参!
722
「守備隊の皆さん。カムロさんの弟子、出雲桃太です。助太刀に来ました」
「ここはおにーさんと紗雨に、ドーンと任せるサメエ」
異世界クマ国、コウナン地方を流れるヒスイ河のほとり、ベンスイ砦を守る守備隊は、テロリスト団体〝完全正義帝国〟の船団から猛攻を受け、窮地に陥っていたところ、後方から予想もしない声をかけられて喫驚した。
「今の声。どこからだ?」
「南西、川下から丸木船がやってきます」
三本の足と魚の尾ひれを持つ人魚の一種、アマビエ族の女性兵士を含む守備隊員達が振り返ると、木をくり抜いて作っただろう、長さ約五メートル、幅五〇センチの木舟を左右並行に連結して天幕を張る、いわゆるダブルカヌーに乗った少年少女達が近づいてくる。
「あの船はいったい?」
ベンスイ砦の守備隊も、〝完全正義帝国〟のテロリスト達も、先ほどから戦場に響いている和笛と琴の合奏に困惑していた。
ゆえにカヌーから飛び降りて、北にある簡易橋へ向かい、山中を走る影に気づいた者は少なかった。
「イタル君の作戦通り、先に橋へ仕掛けに行くわね」
「はい、お願いします」
そのような声をかわして影が消えると同時に、三人の少年少女がのったダブルカヌーは、半壊したベンスイ砦に向かってまっすぐに向かってくる。
「あの二人、カムロ様の弟子と紗雨姫だって名乗っていたけど、本当か?」
「皆のアイドルである紗雨姫が、サーメッメなんて、変な笑い方をするかなあ?」
「笑い方は個人の自由として、今、クマ国軍は前の戦いで敵将ゼンビンにやられて再編中だ。お忍びで来るには危険すぎる」
「「子供は帰りなさい、ここは戦場だ」」
視点の主であるアマビエ族の女性兵士たちは交戦しつつ、離れるよう必死でよびかけるものの、ダブルカヌーは止まらない。
「イタル君、船をお願い」
「砦の兵士さんには、紗雨のサイン入りサメ映画のパンフレットを見せたらわかってもらえるサメエ」
「桃太さん、紗雨さん。ご武運を祈ります」
そればかりか、女物の服を着た黒髪褐色肌の子供を一人残し、額に十字傷を刻まれたジャージ姿の少年と、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女が飛び出したではないか。
「なんだ、自殺志願者か?」
「構わん、屍体人形の材料が増えただけだ!」
「「GAAAA!」」
二〇隻のジャンク船からなる完全正義帝国の船団は、甲板に載せた戦車キメラの四〇体の蛇尾からは銃弾を、獅子口からは砲弾を、そしてたてがみからは雷をとめどなく打ち出すものの……
「我流・長巻」
「サメエアッパー!」
少年は腕に巻き付かせた衝撃刃で銃弾も砲弾も斬り散らし、少女の水をまとった右腕によって雷光も消し飛ばされた。
「あ、あれは、カムロ様をも天まで吹き飛ばすというサメアッパー。あの技、そして特徴的な服を着こなすセンス、もしや本物の紗雨姫なのでは!?」
「だとすると、もう一人の少年は本当に出雲桃太? カムロ様直々の指導を受けて、ウメダの里でおでん様と互角に戦ったという地球日本の勇者か!」
「はい、そうなのです」
絶望にうなだれていたベンスイ砦の守備隊員達は、簡素な船でやってきた女性の服を着た黒髪褐色肌の幼い少年、芙蓉イタルの肯定を得て、やつれていた目に希望の光をともした。
「「ならば、さっきの音楽演奏による防御と治療も彼らの術か」」
「「とんでもない助けがきたぞ」」
守備隊員達の歓迎の声を聞いて、桃太と紗雨もご機嫌だった。
「むふふ、噂されてるサメエ」
「二人でいいところを見せようか」
あとがき
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