第721話 クマ国守備隊、ベンスイ砦にて奮戦する
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「我々クマ国と〝完全正義帝国〟は、コウナン地方最大の水源であるヒスイ河本流とその支流をめぐって交戦中だ。今から見せる記憶も、そのうちのひとつ。敵軍が築いたコウカ要塞と睨み合っていた、ベンスイ砦の守備隊員である、アマビエ族の女性兵士から提供されたものだ」
牛頭の仮面をかぶる異世界クマ国の代表カムロは、白い貝殻を〝遠隔通神〟中の大鏡の前から取り外し、代わりに桃色の貝殻を設置する。
すると、先ほど〝長飯橋〟における交戦記録を再生した白い貝殻と同様……。桃色の貝殻からも霧のような飛沫が吹き出し、蜃気楼を形成して鏡へ映し出した。
「守備隊長、斥候部隊より緊急連絡です。コウカ要塞から大量の船が出ました。〝完全正義帝国〟は、〝兵士級人形〟と呼称する偽天使人形にとどまらず、〝騎士級人形〟と呼ばれる、戦車のような屍体人形まですし詰めに乗せています」
「これだけの大軍となると、先日〝長飯橋〟で大規模な戦闘が発生したという、セイリョウ要塞への援軍に向かうのか」
大鏡に映る、今度の視点の主は、三本の足と魚の尾ひれが特徴的なアマビエ族の女性らしい。
彼ら守備隊が駐留するベンスイに向けて、竹の横帆をつけた三本マストが象徴的な幅広の木造船……。
地球ではジャンク船と呼ばれる大型船と類似のコンセプトで作られた〝完全正義帝国〟の船団は、二〇隻いる船の甲板へ載せた戦車キメラを使い、攻撃を開始した。
「長老達の命令だ。貴様らも新たな人形の素材となれ」
「こっちには、八岐大蛇・第六の首、ドラゴンリベレーター様がついているんだ」
「異界の程度の封鎖、〝騎士級人形〟でひとひねりだ」
アマビエ族の女性兵士達は果敢に防戦したものの、兵力の差と火力の差はいかんともしがたかった。
砦の防壁は、戦車キメラが獅子の口から放つ砲弾の前には容易く粉砕され、あぶり出された兵士たちは、蛇の尾から射出させる銃弾を浴びて負傷する。
更にはたてがみから放たれる雷をあびて、川を封鎖する鉄鎖も断ち切られてしまう。
「いつもは北にかけられた簡易橋を使うのに、船団を組むとは本気だな」
「たとえ玉砕しても、少しでも食い止めるんだ」
「あの艦隊を素通りさせれば、川下の里や村が全滅する」
それでも視点の主達が果敢に抵抗を続けるも、空からの大規模爆撃と、船団からの飽和砲撃にはなす術もない。
「「も、もうダメだ」」
ベンスイ砦の守備隊があわや全滅の危機に陥った、まさにその時。
「我流・手裏剣」
「「GAAA!?」」
どこからともなく飛来した石礫が、三六〇度四方に衝撃波を拡散。
空飛ぶ人形が抱いていた爆弾をもろともに誘爆させて、吹っ飛ばした。
「サーメッメッ。みずちさん、セッションするサメエ」
「戦場で音楽を奏でるなんて、ロックよねえ」
そればかりか、戦場に突如として、落ち着いた和笛と琴の音色が軽やかに響き渡ったではないか。
「これは、音楽を聞いていると傷が癒えてゆくぞ」
「それだけじゃない。笛と琴のリズムにのって、川面から水柱が立って砲撃を止めてくれているぞ」
「助けがきた? どこから?」
想像もしなかった介入に、クマ国軍は喜びつつも困惑。
「「なんだ、なにが起こっている」」
テロリスト団体〝完全正義帝国〟が擁する二〇隻の船団も、乗員がおおいに動揺した。
「守備隊の皆さん。カムロさんの弟子、出雲桃太です。紗雨ちゃんと一緒に助太刀に来ました」
「ここはおにーさんと紗雨に、ドーンと任せるサメエ」
あとがき
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