第720話 記録映像が与えた影響
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「ひとつ、ふたつ、みっつ、……ここのつ。アハハ、敵艦隊、弾幕が薄いぞ。何をやっている?」
「言いたい放題だな、このコンブ!?」
「「うわあああっ、船が、船がしずむうう!?」」
異世界クマ国コウナン地方北西部の〝長飯橋〟周辺で起きた遭遇戦はかくして決着する。
地球から来訪した冒険者パーティ〝W・A〟は、空飛ぶ戦闘艦トツカの圧倒的な性能もあって、テロリスト団体〝完全正義帝国〟が擁する屍体人形一〇〇〇体と、九隻の船からなる艦隊を撃滅し、民間人救出に成功した。
「「二本足の獣を狩るどころか、俺たちが狩られているじゃないか」」
「「逃げろ、逃げろ。船を捨てて要塞まで走れ」」
「「やった、やったぞ、うおおおおおお!!」」
テロリスト達が死に物狂いで逃亡し、追われていたクマ国避難民達の歓声が轟く中、白い貝殻が吹き出す蜃気楼は止まり、映像も終わった。
「さ、さすがは火竜アテルイの遺産。空陸海を飛ぶ戦艦という触れ込みは伊達ではありませんな」
異世界クマ国の代表である、牛の仮面をかぶった幽霊カムロが見せた、ネコマタ族の民間人女性から提供された記憶映像を見て……。
クマ国陸軍を指揮する立場にある、白髪の老将軍、芙蓉コウエンは興奮して手を打ち鳴らす。
「いやいや、いくら空を飛んで水に潜れるといっても戦艦ですよ。普通あんな狭いところで縦方向にユーターンなんてできませんよ。ウメダの里で特訓したとは聞いていましたが、この短期間でよくも鍛えられたものです」
また黒い翼が生えた若き鴉天狗、甲賀アカツキは空水軍を預かる立場から、冒険者パーティ〝W・A〟のクルー達がどれだけの困難を成し遂げたのかが想像できるのだろう。
戦闘艦トツカが見せた操艦術にうっとりとして羽をパタパタとせわしくなく動かしていた。
「そもそも相手は、屍体人形一〇〇〇体に艦隊九隻だぞ。戦闘艦トツカに乗ったパーティメンバーは、いったいどんな度胸をしているんだ。……いや八岐大蛇の首と戦ってきたのなら、肝の太さも相応ってことか」
カムロに抜擢された茶髪天然パーマの青年、左玄チョウコウもまた驚きのあまり目を見開いている。
ともあれ、冒険者パーティ〝W・A〟が操る戦闘艦トツカがセイリョウ要塞から避難民を追ってきた〝完全正義帝国〟の軍勢を完膚なきまでに打ち破っていた。
「空飛ぶ戦闘艦トツカあればこそ、と言いたいところじゃが、橋脚と橋脚の間をとぶ船捌きで背後をとることは、まさに見事。わしも見習わねばなりませんな!」
「ええ、我々クマ国の軍勢の中でもできるものはほとんどいないし、そもそも発想すら思い浮かばないでしょう。もっと柔軟な戦闘が可能なのだと思い知りました」
コウエンとアカツキは素直に感嘆しており、これまで頑なだった思考法にも変化が現れていた。
「師匠が師匠なら弟子も弟子というのはわからん話でもないが……。弟子の仲間まで無茶苦茶なのはやりすぎだろっ」
しかしながら、カムロにスカウトされるまで 〝完全正義帝国〟の側にいたチョウコウはむしろ畏怖がまさるようだ。
「こ、こんな連中のそばにいて、イタルは無事なのか」
「イタル君ならもうひとつの映像に出てくるよ」
チョウコウが茶髪天然パーマをかきむしりながら、知り合いの少年の名前を口にすると、カムロはもう一枚、桃色の貝殻を取り出してみせた。
「我々クマ国と〝完全正義帝国〟は、コウナン地方最大の水源であるヒスイ河本流とその支流をめぐって交戦中だ。今から見せる記憶も、そのうちのひとつ。敵軍が築いたコウカ要塞と睨み合っていた、ベンスイ砦の守備隊員である、アマビエ族の女性兵士から提供されたものだ」
あとがき
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