第717話 冒険者パーティW・A奮闘
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西暦二〇X二年一〇月一日。
異世界クマ国の代表カムロは、牛頭を模した仮面からわずかに覗く口元で白い歯を見せて笑い、半紙に包んだ白色と桃色、二つの貝殻を取り出した。
「ここにある貝殻には、クマ国深海や砂漠に棲む、巨大なハマグリが幻影を映し出す〝蜃気楼〟と似た、他者の記憶を再現する鬼術がこめられている。これを使って、テロリスト団体〝完全正義帝国〟との戦いの様子を見てみようじゃないか」
カムロはテレビ電話やリモート会議に似た〝遠隔通神〟の媒介となる大鏡の前でカチャカチャと準備しながら、話を続けた。
「実のところ、師匠である僕が想定していた以上に、愛弟子達は成果をあげている。
五馬乂はパートナーである三縞凛音と協力して〝完全正義帝国〟の支配地域からから避難民を逃してくれたし……。
桃太君達はウメダの里の顔役、田楽おでんから空飛ぶ戦闘艦トツカを譲渡されて、若手幹部であるリノーに痛撃を与えている」
カムロの説明を聞いて、クマ国の陸軍を預かる白髪の老将軍、芙蓉コウエン、海空軍をまとめる若き鴉天狗、甲賀アカツキ、〝完全正義帝国〟からスカウトされたばかりの茶髪天然パーマの青年、左玄チョウコウはなるほどと頷いた。
「桃太君はその後、部隊を二手に分けたようだが、彼らの活躍は今から見せる二つの映像でわかるだろう。過去視の鬼術使いが避難民の記憶を読み取り、貝殻にこめてある。まずはこっちの白い方から見せようか。コウナン地方西部に住む、ネコマタ族の女性から提供されたものだ」
準備が終わったのだろう。
カムロが大鏡に向けて白い貝殻を置くと、たちまちのうにち煙のような蜃気楼が立ち上り、記憶提供者が見た光景を映し出した。
「「はやく、はやく逃げるんだ」」
「「ナゴヤの里まで行けば、助かるはず」」
視点の主は、〝完全正義帝国〟がクマ国コウナン地方北西部に作りあげた新たな軍事拠点、セイリョウ要塞の存在を知り、ヒスイ川の支流にかけられた大橋〝長飯橋〟を渡り、逃亡をはかったようだ。
「せめて、この子だけでも……」
「まま……」
視点の主は、二つに別れた尻尾を使って、彼女の子供しき猫耳の生えた幼い少女をかかえて、他の避難民達と共に這うようにして橋をわたりきる。
「「コロセ! コロセ! 狩りの時間だああ」」
セイリョウ要塞を出立した〝完全正義帝国〟の指揮官が率いる、天使に似せた死体人形、およそ一〇〇〇体を連れたクマ国住民を追って橋へ殺到していた。
「「もう、ダメなのかっ」」
視点の主人だけでなく、避難民達が絶望に足を止めた時。
「屍体人形を発見、クマ国の民間人が追われている。助けにいくぞっ」
「地球日本から来た冒険者パーティ〝W・A〟だ。聞こえるかっ。ぼく達は紗雨ちゃんの友達でクマ国の味方だ!」
まるで闇夜を裂く一条の光のように、全長一〇〇メートル、高さ約一〇メートルの、剣に似た空飛ぶ戦艦が姿を現した。
「「た、助けが来たのか!?」」
記録映像に映る群衆達が歓声をあげ……、大鏡越しに見守るコウエン、アカツキ、チョウコウも目を大きく見開いた。
「あの白い剣のような飛行体が最近噂に聞く、火龍アテルイ様の遺産か!」
「地球日本の勇者、出雲桃太様がウメダのおでん様から譲られたという空飛ぶ船!?」
「あれが冒険者パーティ〝W・A〟の連中がリノーをぶんなぐるのに使ったという戦闘艦トツカかよ、でかっ」
あとがき
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