第716話 完全正義帝国のはらわた
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「コウエン将軍もアカツキ特務隊長もさっきから口にしているから、知っているだろう? 〝完全正義帝国〟の主力は、殺害した人々の遺体を加工した屍体人形だ。リノーとゼンビンが、もし本当に三世界征服を狙っているのなら、奴らは戦力確保のために殺し続ける必要がある。もしも降伏して武装放棄なんかした日には、皆殺しにされるぞ」
テロリスト団体〝完全正義帝国〟から投降した茶髪天然パーマの青年、左玄チョウコウが降伏勧告についての私見を述べると……。
彼の説明が意外に筋立っていたことを知り、異世界クマ国の軍勢をまとめる白髪の老将軍、芙蓉コウエンと、黒い翼を持つ若き特務隊長、甲賀アカツキは顔面蒼白となった。
「た、たしかにもっともだ。ゼンビンもリノーも力で権力の座を奪いとったのであれば、戦果を上げ続けなければ、部下に示しがつかないのかっ」
「い、今のように膠着した状態だからこそ、新指導者としては、前指導者がなし得なかったクマ国攻略は成し遂げたいでしょうね。もしも降伏すれば我々は人形の材料か」
コウエンもアカツキもようやく頭が冷えたらしく、大鏡の中で汗顔のいたりとばかりに恥いっている。
「僕もチョウコウの意見に同感だ」
チョウコウを〝完全正義帝国〟からスカウトした張本人である、牛頭の仮面をかぶったクマ国代表カムロは胸を撫で下ろし、うんうんと鷹揚に頷いた。
(一〇年前、八岐大蛇の首に政権幹部格が暗殺された時はどうなるかと思ったが、各里の首長が成長したことで、内政面はどうにか立て直すことができた。
しかし、軍事についてはまだまだ危ういようだ。劇薬と知りつつ、強襲揚陸部隊を新たに設立して、左玄チョウコウを引き立てたんだが、想定以上の刺激になってくれた)
カムロが引退あるいは死亡した場合、軍事面については、コウエンとアカツキが次代の重要ポストを担うのだ。
二人には、単純な指揮だけにとどまらず、こういった大局的な判断についても慣れてもらう必要があった。
「しかし、〝完全正義帝国〟も博打に出たものですな」
「カムロ様の首をよこせなど、断られることは向こうも承知しているはず」
「コウエンさん、アカツキさん。だからこその時間稼ぎなんだ。リノーもゼンビンも、クマ国との決戦は避けられないと理解している。にもかかわらず降伏勧告なんて小細工に走ったのは、おそらくはそこの意地悪な代表……ごほん。カムロ様の手管で想定外の損耗を受けて、攻めようにもにっちもさっちもいかないんじゃないか?」
チョウコウがジト目で語るや、カムロは仮面からのぞいた口元を悪戯っぽく歪めた。
「うん、左玄チョウコウの推察通りだとも。
リノーとゼンビンが新たな〝完全正義帝国〟の本拠地に選んだらしいコウナン常葉山一帯……。
僕が潜入させた五馬乂にとどまらず、ウメダの里を通じて協力を申し出てくれた地球日本の勇者、出雲桃太君がおおいにかきまわしてくれた。ここに彼の活躍を記録した資料がある」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
次章はクマ国から見た戦艦トツカに乗る冒険者パーティ〝W・A〟の生徒達や、桃太君の活躍となります。お楽しみに。
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