第714話 暗雲を払うために
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「コウエン、アカツキ。このまま二人だけで勝てるというのなら、僕も任せることに異存はない。ならば、頼りになるところを見せてくれ。両名、今回の〝完全正義帝国〟の降伏勧告についてどう対応する?」
異世界クマ国の代表、牛の仮面をかぶった幽霊カムロは、部下である白髪の老将、芙蓉コウエンと、若手指揮官の甲賀アカツキの腹のうちを探るため、クマ国民一〇〇万人を殺傷した凶悪なテロリスト団体〝完全正義帝国〟について質問を投げかけた。
「対応など撃滅に決まっています。今こそカムロ様と共に夷狄どもを打ち払いましょう」
「カムロ様、心労をおかけして申し訳ありません。新参者に頼らずとも、必ずや我々が御身の手足となり、賊どもを殲滅してみせましょう」
しかしながら、〝遠隔通神〟で大鏡に映るコウエンとアカツキから返ってきた反応は、カムロにとって望ましいものではなかった。
二人とも口だけは勇ましいものの、カムロから見れば、作戦の基本がなっていないからだ。
「コウエン、アカツキ。僕が今いるコウナン地方南部には、まだ〝完全正義帝国〟の支配者である長老達が潜み、屍体人形の中でも危険な〝陸竜人形〟が何体も配置されている。以前は反政府団体〝前進同盟〟の勢力圏だったこともあるし、落ち着くまでは、東部や西部に向かうことはできないよ」
「で、では、今は防戦に努めるべきですなっ。うかつに交戦して死者を出せば、敵に利用される。それは今、最も避けるべきことです」
「コウエン将軍に賛成です。せいては事を仕損じると言いますものね」
カムロは奥歯をとっさに噛み締めて、どうにかポーカーフェイスを維持したものの、内心で自身の失政を自覚する。
(一〇年前、クマ国の政治と軍事を主導していた建速一族とその仲間達が、アシハラの里で八岐大蛇の襲撃を受けて全滅して以来、この国は僕に過剰依存する歪な政体となってしまった)
カムロは、一〇年前に八岐大蛇がアシハラの里で引き起こしたテロで多くの部下を失った後、長い時間と労力をかけて各地の里長を育てあげ、内政を立て直した。
だが、表面上は平和だったこともあり、軍事については詰めが甘かったのだろう。
(ひょっとしたら、八岐大蛇を一度は退けた僕の存在がセーフティネットと誤認され、部下たちの成長を阻んでいるのか……)
実のところ、陸軍を統べる芙蓉コウエンも、空海の部隊をまとめる甲賀アカツキも、それぞれ優秀な武官であるにも関わらず……。
彼らは自身と部下の力だけではなく、カムロが闘うことを前提に作戦を練っている。
(僕は今後、クマ国の安寧を護るため、地球や異界迷宮カクリヨとの繋がりを断ち切る〝三世界分離計画〟を実行する。その成功失敗を問わず……、僕は死ぬか、生き延びても引責辞任を余儀なくされるだろう。次代へ託す事を決めた今、これじゃあダメなんだ)
カムロは自らがスカウトしたにも関わらず、状況に圧倒されて路傍の石のように沈黙を守る、茶髪天然パーマの青年、左玄チョウコウに対し水を向けた。
「左玄チョウコウはどう思う? 〝完全正義帝国〟が寄越した降伏勧告への対応について、忌憚のない意見を聞かせて欲しい」
あとがき
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