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第70話 〝豹口鬼〟フラウロスの妄執

70


 鷹舟たかふね俊忠としただは、娘のように愛した凛音を救うため、自ら彼女をむしばむ〝鬼の力〟の呪いを、全て引き受けてった。


「たかふね、返事をして? たかふね、鷹舟ええっ」

「落ち着け、凛音。ちくしょう、ホルスの目が暴走してやがる!?」


 機械仕掛けの義腕が床に落ちた音を聞いて、三縞みしま凛音りんねは幼き頃から守ってくれた保護者の死を察したのか、五馬いつまがいの腕の中で人目もはばからずに泣いた。

 彼女の慟哭どうこくに引っ張られたのか、一度は壊れたはずの彼女の義眼と義耳、〝鬼神具きしんぐ・ホルスの目〟が再起動し、凛音の肉体を〝赤い霧〟と〝黒い雪〟で覆い始めた。

 鷹舟から彼女を託された五馬いつまがいはとっさに九字を切るも、鬼の力の侵食は止まらない。


「オイコラ、短剣。お前は、八岐大蛇やまたのおろちを斬れるくらい、凄い剣なんだろう。どうにかしろ!」


 万策尽きた金髪不良少年は、力を使い果たしたのか、黄金の光を失って赤茶けてしまった短剣に一縷いちるの希望を託し、少女のガラス玉に似た義眼とアンテナめいた義耳に当てる。

 すると錆びた短剣は一瞬だけ黄金の光を放ち、ホルスの目を強制的に停止させ、凛音の白い裸体を――小さな三毛猫の姿に変えて、眠らせた。


「相棒。こっちは解決したぞ」



 乂が仇敵と幼馴染おさななじみを巡る因縁に決着を付けた頃――。

 出雲いずも桃太とうたと、彼の被る仮面となった建速たけはや紗雨さあめは白い鈴懸すずかけ結袈裟ゆいげさをつけた〝行者ぎょうじゃ〟姿で、全長五メートルに達する豹頭の魔人、〝豹口鬼フラウロス〟となった黒山くろやま犬斗けんとと交戦中だった。


「ふざけるなよ、何が解決だ。冒険者の悪ガキめ、わしからまた奪うのか!」


 鷹舟の遺言を聞いた黒山は、豹の大口を開け、牙をむきだしにしてわめいた。


「黒山、また奪うとはどういう事だ?」

「貴様のようなガキには、わかるまい。このクーデターは、わしが正当な地位を回復するものだったのだ」

「正当な地位、何を言っているのかわからないぞ?」


 黒山は、桃太の鈍い反応になおさら腹を立てたらしい。

 全身に呪文の墨を書入れられた〝豹口鬼フラウロス〟の肉体をぶるぶると震わせ、獣のような長い手と足を振り回して、赤子のようにバタバタと暴れている。


「物知らずなガキに教えてやろう。一〇年前、弘農こうのう楊駿たけはやと、奴が率いた〝勇者党〟が政権を握った時、わしはこの国の王だった。ど素人の政党をいいように操って、気に食わん奴は追い出し、金も湯水のように使えたのだ。その正しい世界を、愚民どもが選挙で覆すから、こんなことになったのではないか!?」


 桃太は、黒山のあまりに見当違いな恨み節に呆れた。


「子供だった俺でも、お前たちの……デタラメな政策のせいで牛や豚に病気が流行はやったり、ダムや堤防の計画を無理やり中断したことで災害が起きて、父さんや母さんが苦しんだことを知っている。死んだ人だっているんだぞ?」

「愚民どもが何人死のうと知ったことか。わしのようなエリートに使いつぶされる為の道具に過ぎんのだ」


 桃太は理解する。

 眼前の男は、〝豹口鬼フラウロス〟になる前から、とっくに鬼に堕ちていた。


「お前はエリートじゃない。鬼の力をもてあそぶ最低の悪党で、ただのテロリストだ!」

「うるせええええっ。これが〝鬼の力〟、選ばれし者の力だ。お前も凛音のように我が道具となるがいい!」


 黒山は激情の赴くままに、広間の岩盤を殴りつけた。

 彼の肉体に刻まれた入墨いれずみが赤く輝き、地表に三角形の魔法陣が展開。

 あたかも船幽霊の手の如く、桃太を取り込まんと、一〇〇を越える黒い手が伸びた。


あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 黒山は小〇一郎だった!? いやまあ、あの人たちは端的に言えばその人たちなりの理想があって、ダムがないほうがいいと思ったその「善意」が間違っていてやらかした印象がありますが…… 黒山の場合、…
[一言] 乂の持っている短剣、異聞でクロードが作ったような話でしたが、 当てるだけで鬼の力を強制的に停止させられる!? なんか凄い切り札な気がしてきました。 黒山犬斗はもっと何か目的があるのかと思い…
[一言] 黒山ェ……
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