第712話 クマ国軍の内部対立とカムロの打開策
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(半世紀以上前に、僕と共に八岐大蛇と戦った者達は、袂を分かったオウモ以外、もはやいない。そして、現在、 大蛇の手駒である〝完全正義帝国〟からクマ国を守るための、軍を代表する二人は感情に呑まれている。この事態を切り開くためには、……新しい指揮官、左玄チョウコウが必要か)
異世界クマ国の代表である、牛の仮面をかぶった幽霊カムロは、クマ国陸軍を率いる白髪の老将、芙蓉コウエンと、クマ国空海の特務部隊を束ねる黒い翼が生えた鴉天狗、甲賀アカツキの論争を見て嘆息した。
二人は一度、〝完全正義帝国〟の前線指揮官ゼンビンに敗れているし、理不尽な降伏勧告を叩きつけられたことで、感情が揺さぶられているのはわからなくもない。
だが、上に立つ者がいつまでも感情的になっていては、勝てる戦も勝てないだろう。
(こんないさかいで時間を浪費している間にも、戦場では一〇〇万もの同胞が倒れているというのに。クマ国だけでは対処できなくて、僕の弟子とはいえ、地球日本の勇者……部外者の桃太君や冒険者パーティ〝W・A〟の力まで借りている。その自覚はあるのか?)
カムロは自身の感情を抑えようと深呼吸しながら、牛頭の仮面の隙間から外の景色へ目をやって、北の常葉山を中心とする山脈一帯とヒスイ川を眺めた。
そうして、部下達が落ち着くまで待とうとしたのだが……。
「若造はすっこんどれ。わしが〝完全正義帝国〟をつぶすと言っているんだ。カムロ様を先頭に一気呵成に突撃すれば、あのような弱兵を蹴散らすなど造作もない」
「貴方の軍歴は尊敬していますが、もういい加減勇退してくれませんか。カムロ様の強さを生かすならむしろ遊撃。我々特務部隊が貴方達の分もぶちのめしてやりますから、引っ込んでいてください」
勧告文面で名指しで「死ね」と要求されたカムロが冷静になろうと努力しているにも関わらず、部下二人のヒートアップは止まらない。
カムロはやむをえず、先日スカウトしたばかりの茶髪天然パーマの青年、左玄チョウコウを劇薬として投入することを決意した。
「コウエン、アカツキ、聞いてくれ。降伏勧告を却下するのは勿論だが、軍組織を改変するぞ。〝完全正義帝国〟を倒すためには新しい指揮官と、従来にない役割を担う部隊が必要だ」
「「はっ……はあっ!?」」
カムロの唐突な命令を聞いて、コウエンも、アカツキも寝耳に水と目を白黒させた。
「今から、新しい〝通神〟を繋ぐ。
いまあるクマ国陸軍と、空水の特務部隊に加えて、コウリョウ要塞で接収したホバーベース〝北府号〟を中核とする遊撃専門の高機動戦力……強襲揚陸部隊〝北府隊〟を設立する。
その初代隊長には、僕の代理となる臨時司令官を兼ねて、左玄チョウコウを任命する」
そして、カムロが新方針を明らかにすると、コウエンとアカツキは、これまでクマ国の武門を担っていた立場もあり、当然のごとく反発した。
「「カムロ様、待ってください。左玄チョウコウなる男は、我らが同胞を殺めたにっくき〝完全正義帝国〟の隊長で、先日寝返ったばかりと聞いています」」
あとがき
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