第711話 クマ国、降伏勧告を受けて対応を議論す?
711
西暦二〇X二年九月。
八岐大蛇、第六の首ドラゴンリベレーターの支援を受けた、元地球人のテロリスト団体〝完全正義帝国〟は、屍体を戦闘人形に変える外法を駆使し、異世界クマ国において軍人民間人合わせて一〇〇万人に達するほどの犠牲者を出した。
しかしながら、クマ国側も一方的にやられていたわけではない。
「イヒヒ。いかにクマ国の武神だろうと、特別製〝地竜人形〟の重力攻撃と、〝騎士級人形〟の砲撃をうければ、ひとたまりもあるまい!」
「そのナマズ髭とかっぷくのいい体、〝完全正義帝国〟を支配する長老のひとり、水討将軍ソンイだったか。我らの同胞が受けた痛み、思い知れ!」
異世界クマ国の代表たる、牛頭の仮面をかぶる足の見えない幽霊カムロは、雑草ばかりか岩をも押しつぶす重力をものともせず、右手に持った雷の剣と、左手に握る炎の剣を振るい、全長三〇メートルに達するドラゴンと、一〇体の戦車型キメラを破壊する。
「重量二〇倍だぞ、なぜ動ける? 足がもげても不思議はないはず!」
ソンイはまるでバケモノでも見たかのように強張った顔で驚愕するも、カムロの返答はあっけらかんとしたものだった。
「ひとつ教えておこう。僕、すなわちクマ国の幽霊には……足がない」
「イヒ、ヒヒヒっ。そ、そんなのありかあっ。げぼあっ」
カムロが両手の二刀で十文字に切り伏せると、ソンイもまた他の長老達同様に、〝鬼の力〟の汚染を象徴する赤い霧と黒い雪となって散った。
「みんな、無事かっ!?」
「「はい、カムロ様ありがとうございます!!」
このように、カムロは〝完全正義帝国〟の指導者層たる長老と、彼らが擁する決戦兵器〝陸竜人形〟を次々に倒し、コウナン地方南部で民間人救出に尽力していたのだが……。
月があけた西暦二〇X二年一〇月一日。
古くから組織を支配していた長老達の戦死によって、新たな指導者となったリノーとゼンビンから、まさかの降伏勧告が届いた。
『我ら〝完全正義帝国〟は、地球、異界迷宮カクリヨ、異世界クマ国の三世界に平和をもたらすべく決起した。もし平穏を望むなら、我らの威光にひれふし、愚かなる支配者カムロの首と、クマ国全域の支配権を寄越せ。さもなければ全てを焼き尽くす』
カムロは鼻で笑ったものの、内心むしゃくしゃしていたのか、その日の午後は〝完全正義帝国〟の掃除をフルパワーでやってしまい、左玄チョウコウとの戦い以来の筋肉痛に再び苦しむことになる。
「敵には勝てるのに、年波には勝てないというのか!」
そして翌日の一〇月二日。
カムロは前線の最高指揮官である芙蓉コウエン将軍や、甲賀アカツキ隊長と連絡を取り合い、テレビ電話、あるいはパソコンのオンライン会議に似た〝遠隔通神〟会議で、対応を打ち合わせることにした。
「降伏勧告などと馬鹿馬鹿しいっ。カムロ様に対し、無礼な真似をする」
「今度ばかりは同感です。怪我が治ったらぶちのめしてやる」
カムロが見る、シナノの里スワの大社に据えられた大鏡二枚には、それぞれ白髪の生えた芙蓉コウエン将軍が熱したヤカンのように顔を真っ赤に染める姿と、黒い翼の生えた鴉天狗の甲賀アカツキが額に青筋を立てて激怒する姿が映っていた。
(半世紀以上前に、僕と共に八岐大蛇と戦った者達は、袂を分かったオウモ以外、もはやいない。そして、現在、 大蛇の手駒である〝完全正義帝国〟からクマ国を守るための、軍を代表する二人は感情に呑まれている。この事態を切り開くためには、……新しい指揮官、左玄チョウコウが必要か)
あとがき
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