第709話 必死の防戦
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「〝鬼神具〟、オロチノアラマサよ、血をすすれ。舞台登場 役名宣言――〝殺戮者〟!」
〝完全正義帝国〟の若手指揮官である、幽鬼のようにな長身痩躯の青年ゼンビンは、赤く光る日本刀、オロチノアラマサを手に高らかに宣言。
コウナン地方を貫く水源であるヒスイ河の東部から西部を、ジャンク船と呼ばれる三本マストの大型木造船で移動しながら、〝転位門〟を用いて奇襲を繰り返し、多くのクマ国人を殺戮し、一帯を地獄絵図に塗りつぶした。
「グハハ。多少の齟齬はあれど、万事がリノーの想定通りに進んでいる。キソの里を中心にヒスイ川とコウナン地方一帯を奪えば、地球の小国並の土地が手に入る。ここからだ。おれ達は、クマ国、地球、異界迷宮カクリヨの三世界を掴む」
その結果、死体人形は日を追うごとにその数を増やしていき、わずか一か月あまりで近辺の村は壊滅し、〝完全正義帝国〟が使役する屍体人形の数は三〇万体にも膨れ上がった。
「押されているだとっ、僕の見積もりが甘かったか!」
クマ国代表のカムロは、反政府団体〝前進同盟〟が軽挙妄動に走る場合を想定し、コウナン地方全域に演習という名目であらかじめ軍を展開するなど、十全な備えをしていた。
しかし、カムロとも縁が深い〝前進同盟〟代表のオウモが凶刃に倒れ、重傷を負ったことで、事態はまるで予想外の方向に動き出す。
「八岐大蛇め、やってくれる!」
カムロとて、三世界の全てを見通せるわけではない。
オウモが生死不明となった直後に〝前進同盟〟の過激派を乗っ取った、八岐大蛇第六の首、ドラゴンリベレーターと、その私兵〝完全正義帝国〟が使う屍体人形の技術と数は、カムロの想像をはるかに越えていた。というか、そもそも想像できるはずもなかった。
そして実際の脅威を知ったあとも、クマ国がゼンビンの暴威を止められなかったのは、ひとえに彼が強すぎたからだ。
「「我々だって誇りあるクマ国の戦士だ。カムロ様が〝完全正義帝国〟の指導者を討伐する時間くらい稼いでみせる」」
ゼンビン率いる精鋭部隊の猛攻に対し、カムロを欠いた異世界クマ国の軍勢は、それでも怯むことなく応戦した。
「ただ一人で、南の大軍を引きつけているカムロ様に報いるために、戦果を捧げるのだ。侵略者どもに動かされる人形を供養するぞ」
クマ国に帰化した元地球人、老齢のコウエン将軍率いるクマ国陸軍は左手にたいまつを、右手に斧や槍といった得物を持って東側から突撃し。
「皆さん、里を、村を守りましょう」
生粋のクマ国人である鴉天狗のアカツキが選抜したクマ国空戦部隊は、西の空から雨のように矢を放つ。
「な、あの屍体人形、切っても叩いても再生するだと!?」
「通常の槍や砲弾だけでなく、毒や呪詛まで使ってくるのか、これはまずいっ」
「コウエン将軍。奴らが背負っているのは、火薬壺です。あれは危険すぎる!」
「「うわああああ」」
しかしながら、クマ国軍の反撃は、空飛ぶ天使のような人形兵器〝兵士級人形〟の爆撃によって儚くも蹴散らされた。
「グハハ。たいしたことないな。カムロのいないクマ国軍は烏合の衆か?」
あとがき
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