第708話 〝殺戮者〟ゼンビンの猛攻
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「〝完全正義帝国〟! 己が私欲のために我が国の民草を殺めた罪を贖え!」
西暦二〇X二年九月下旬。
異世界クマ国の代表カムロは、輸送隊長である左玄チョウコウとその部下達を引き抜いた後も、テロリスト団体、〝完全正義帝国〟の長老達が展開した大軍を徹底的に蹂躙。
「「わ、我々は選ばれたぞんざいだぞおおっ、ぎょえええっ」」
「「カムロ様だ。カムロ様がいらっしゃった!」」
カムロは弾圧下にあった大勢のクマ国民衆の救出に成功する。
しかし、結果として彼は、〝完全正義帝国〟総指揮官の座をのっとった白髪の青年、リノーの思惑通りに、コウナン地方南部の戦場に縫い止められることになった。
「カムロは強い。強すぎる。半世紀前に、八岐大蛇の首が七体と、候補者一〇〇体、そして精鋭モンスターを真っ向から討ち取るほどだ。万全状態の彼を相手に〝陸竜人形〟を投入しても、時間稼ぎにすらならないでしょう。ならば、狙うべきは疲労を強いる消耗戦に他ならない」
カムロは三世界屈指の強さを誇るものの、無敵ではない。
八岐大蛇の首、七体を次々に討ち取った若き日ならいざ知らず、老いた今の彼は戦い続けることで肉体と精神が消耗し、回復が追いつかなくなるからだ。
「カムロにはコウナン地方南に巣食う長老達を掃討してもらい、連戦で弱ったところを我らが討つ。そうすれば地球もクマ国もカクリヨも我らのもの。その時こそ我々は自由になれる」
リノーは別働隊を率いる相棒に呼びかけると、届いたばかりの報告書を見て、三日月に似た邪悪な笑みを浮かべる。
「よし、予想通り、出雲桃太が乗った空飛ぶ船はコウナン地方の北部から抜けて、ナゴヤの里まで下がりましたか。ならばいい、彼は勇者ではあるが軍人ではなく、クマ国の地理に通じた参謀もいない以上、脅威にはならない。コウナン地方北部の制圧は順調に進みそうだ」
リノーは知るよしもないことだが、実のところ、戦闘艦トツカは囮に過ぎず……。
桃太は船を降りて、地上で戦闘を続行。彼の傍には、クマ国で生まれ育った参謀、芙蓉イタルが同行していたため、この後も激しい戦闘が続くことになる。
「そしてカムロのいないコウナン地方、東部と西部の戦場もまた、恐れるに足りません。ゼンビン、よろしく」
「あいよ」
その一方、異世界クマ国で四〇万人に及ぶ大虐殺を引き起こした、元地球人のテロリスト団体、〝完全正義帝国〟、その指導者であるリノーから全幅の信頼を寄せられた共犯者――。
前線指揮官であるゼンビンは、幽鬼のように青白く、枯れ枝のように細いものの、二三〇センチに達する高身長で赤く光る日本刀を振るい、先日まで共に農作業に励んでいたクマ国の反政府団体〝前進同盟〟の同胞を切り捨てた。
「そんな、最初から嘘だったのか」
「そうとも嘘さ。おれは真実を知っているが、お前達クマ国人が我々に施した支援は、なかったことになっている。まあ、単に長老どもが食いつくしただけなんだがね。恵まれない人に愛の手を、なんて簡単に財布を開くものじゃないぜ」
まるで尖塔のように細く、高い、血まみれの悪鬼は日本刀を片手に屍の山を積み上げて、自らの役名を朗々と名乗る。
「〝鬼神具〟、オロチノアラマサよ、血をすすれ。舞台登場 役名宣言――〝殺戮者〟!」