第69話 ある主従の結末
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金髪の不良少年、五馬乂と、ざんばら髪の剣鬼、鷹舟俊忠。
敵同士である二人は、三縞凛音を救う為に、肩を並べて共闘する事を選んだ。
「AAAAAA!!」
そんな二人を恐れるように……
全長三メートルの魔猫〝炎猫鬼〟となった凛音は、松明から炎を放ち、広間の一角を火の海に変えた。
「凛音、鬼になって忘れたのか? その技の攻略法は、相棒がとっくに発見済みだぜ!」
乂の振るう黄金の短刀から生じた風が、あたかも獲物を喰らうヘビのように酸素を食らい、真空によって燃えさかる炎を滅ぼした。
その瞬間、鷹舟は両足を毛むくじゃらの獣のごとく異形化させて加速する。
「凛音。わしの〝鬼神具〟のいわれを覚えているか? 茨木童子は、世にも名高き豪傑、渡辺綱と戦い、腕を奪われるも、七日七夜の闘争の果てに奪い返したという。――鬼剣・〝七夜太刀〟。我が必殺剣の真価は、〝鬼の力〟を吸い取ることにある!」
鷹舟は全長三メートルの魔猫に体当たりして、彼女に取り憑いた〝鬼の力〟を食らい始めた。
火の点いた毛皮と、口に咥えた松明の炎が灰色の剣鬼を包むも、彼は決して離れない。
「おい、嘘つき野郎。身体が燃えているぞっ」
「構わん。俺サマの一生は嘘と偽りに満ちていたが、唯一つの真実だけは、決して鬼にくれてやらん!」
「AAA」
鷹舟は失われた腕の根本から、先ほど桃太には破られた〝赤い霧〟で作られた巨大な手を作りあげ、〝炎猫鬼〟燃える毛皮と肉体を引き裂いて、囚われていた凛音を救い出すことに成功する。
「五馬乂。凛音を頼んだぞ!」
「任せな、幼馴染の縁だ。相棒がリボン女を助けたみたいに、オレだってやってみせるぜ!」
鷹舟が投げつけた凛音を、乂は背中に『漢道』と刺繍した革ジャンで包むようにして受け止め、九字を切った。
「臨兵闘者皆陣烈在前――九字封印!」
鷹舟は、灼熱の炎に身を焦がされながらも、壊れた〝茨木童子の腕〟を押し付けるのをやめない。凛音の鬼の仮面が落ちて、彼女の白い肌にまとわりつく黒と赤の穢れが晴れた。〝鬼の力〟に守られていたせいか、火傷もないようだ。
「やるじゃねえか、嘘つき野郎。少しは見直したぜ!」
そうして、乂が振り返ると……。
鷹舟の焦げた肉体は限界を迎え、〝赤い霧〟と〝黒い雪〟となって崩れ始めていた。
「嘘つき野郎、お前……」
「たかふね、どこ、どこにいるの?」
金髪不良少年のただならぬ声色に、彼の腕に抱かれた傷だらけの少女は、保護者であった男の危機を察したのか、手を伸ばした。
されど、〝炎猫鬼〟から引き剥がされたことで、義眼と義耳に不具合が生じたのか、まるで見当違いの方向だ。
「鷹舟、ごめんなさい。ワタシが貴方を誤らせてしまった……」
「イハハハッ。逆だぞ、凛音。俺サマがお前を誤らせたのだ」
鷹舟はまるで父親が娘を愛おしむように遠くから凛音を見つめ、喉も裂けよとばかりに絶叫した。
「この戦場に集いしものよ。今、真実を伝える。此度のクーデターは全て、鷹舟俊忠と、黒山犬斗が仕組んだ陰謀である。三縞代表は、俺サマと黒山に操られただけだ! イハハ、ハハハハ!」
歯車がむき出しになった義腕が、ガシャンと鈍い音を立てて岩盤へ落ちる。
日本政府を、冒険者組合を、〝C・H・O〟の団員を、……欺き続けた嘘つき男は、高笑いをあげながら、ただひとつの真実を胸に秘めて逝った。
あとがき
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