第700話 左玄チョウコウの合体変身!?
700
西暦二〇X二年九月上旬。
異世界クマ国の代表たる、牛頭の仮面をかぶった足の見えない幽霊カムロは、地球と異界迷宮カクリヨを含む三世界征服を目論む犯罪結社〝完全正義帝国〟の首脳陣を討つべく、コウナン地方南部に殴り込みをかけ、虐殺を引き起こした重犯罪者達を次々に討ちとった。
続いて九月中旬に輸送拠点であるコウリョウ要塞に乗り込んだところ、カムロは輸送隊長を名乗る茶髪天然パーマの青年、左玄チョウコウと遭遇し、仲間を逃がそうとする彼と心ならずも交戦状態に入ってしまう。
「〝山鶏魔女の鏡〟よ、我を写せ。たとえ偽りであっても、俺はヒーローとなる。舞台登場 役名宣言 ――〝偽豪傑〟」
チョウコウが、自らの首にかけた〝鬼神具〟たる手鏡をかかげて彼自身を写すや、光に包まれて地球のラガーマンを連想させるほどに肩幅の広い偉丈夫の姿が一変した。
「ズメエヴィチとは、地球東欧に伝わる強大な竜ズメイの化身とも、魔法を操る竜人とも呼ばれる存在だったか。役名に申し分のない、強烈な〝鬼の力〟を感じる。なかなかに年季の入った〝鬼神具〟のようだな」
カムロの眼前で、首から下げた鏡の光を浴びた青年は二本角が生えたドラゴンの顔が如き鬼面をかぶり、鱗に似たスーツで全身をおおい、異界迷宮カクリヨを闊歩する二足歩行の爬虫類、リザードマンに似た姿に変身――。
彼の両腕は竜の爪を模した、トンファーめいた武器を横付した籠手にくるまれる。
「〝山鶏魔女の鏡〟の力は、精神干渉だ。自身への暗示で身体能力を限界まで引き出すんだよ。この力で俺はアンタに勝つ。それができなくとも、腹を空かせたガキどもに飯が届く時間を稼ぐ」
「なるほど、自己催眠によって意識を〝鬼神具と重ね合わせ、疑似融合――合体変身を実現したのか。催眠である以上、桃太君や田楽おでんのように長くは維持できないだろうが、それを可能とする絆と精神力は、面白い!」
チョウコウは、異世界クマ国で罪なき人々を虐殺した、元地球人で構成されたテロリスト団体〝完全正義帝国〟の一員でありながら、どこまでも真っ当な感性を維持していた。
「ああ、そうさ。一回発動させたら、しばらくの間、使い物にならなくなる切り札中の切り札だ。それでも、俺は俺にできることをやるだけだ。〝偽豪傑〟の溢れるパワーは、風すらも動かす。秘技、〝竜吼旋風〟!」
チョウコウはトンファーに〝鬼の力〟を纏わせて風をかき集め、竜巻を繰り出した。
「先程目眩しにばら撒いた砂を加えて、刃となすっ。ジイサン、逃げるなら今のうちだぞ!」
暴風は、先程カムロを足止めするためにばら撒かれた大量の砂を巻き込んで、ジューサーやフードプロセッサーのような猛威を振るった。
アプローチ方法は異なるものの、カムロの弟子である出雲桃太の必殺技、〝螺子回転刃〟に合い通じるところがあるだろう。
切断の嵐は、輸送基地に並べられた金属製コンテナをバラバラに切り刻みながら、カムロに向かって突き進む。
「うんうん。一度使った罠を次の技に繋げるところ、オウモの直弟子らしくて結構結構。ただ、あいつや桃太君と違って、強敵との実戦経験から足りないから――術の精度が甘い。この程度なら、簡単に切れる」
「は?」
しかしながら、カムロは竜巻を手刀を一閃させただけであっさりとかき消すや、チョウコウの元へ瞬く間に接近。
「ぎゃあああ。怪力オバケえええっ」
「騒いでいる暇があったら、応戦しろ。足元がお留守だぞっ」
「といいつつ、胸と頭を狙うんじゃないっ」
カムロは左ローキックで牽制しつつ、ボディ狙いの右ミドルキック、更に側頭部を狙った左回し蹴りを浴びせかけると、チョウコウは籠手についたトンファーでそらし、鱗スーツの装甲を犠牲に辛くも防ぎきった。
「ち、中距離戦じゃ勝ち目なんてないか。長老達のようなクズならともかく、怪力オバケでもまともなジジイを殴るのは気が引けるがなっ。竜爪乱打!」