第697話 クマ国総大将カムロの武勇
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「俺たちは、水だけで無理矢理働かされてるガキどもに、たらふくメシを食わせてやるって、約束したんだよ。だからここで捕まるわけにはいかない!」
異世界クマ国の代表、カムロは説得中に不意打ちを受けたものの、〝完全正義帝国〟の輸送隊長である茶髪天然パーマの青年、左玄チョウコウが発した言葉を聞いて、目尻をさげた。
「チョウコウ。君たちが守ろうとする子供達もまた、僕らクマ国の一員だ。〝完全正義帝国〟から保護した上で、温かい食事と布団を用意しよう。我々が戦う理由はないんじゃないか?」
「カムロさんよ。悪いが、〝偉そうな奴がかけてくる甘い言葉は信用するな〟と、以前の上司だったオウモさんに叩き込まれている。アンタの話は都合が良すぎて怪しいんだよ!」
カムロは〝完全正義帝国〟が蜂起して以来、〝鬼の力〟に蝕まれた悪鬼ばかりと戦ってきた。
チョウコウのような、まともな人間性を維持した相手と拳を交えるのは久方ぶりのことであり、高揚が抑えきれなかった。
(チョウコウという男、オウモの教育が良かったか。上辺の言葉に惑わされず、自分自身で判断する冷静さもある。戦力として欲しいな。それに純粋な若者を、このまま死地へ返すわけにはいかない)
老いた幽霊は拳を握りしめる。
先日からの連戦故か、腕がピリピリと筋肉痛で痛み、全身に広がってゆくが、そこは我慢である。
「ならば仕方ない。チョウコウ、このカムロが相手になろう」
カムロは爆弾を抱えた腰を庇いながら、見えない足で間合いを詰めつつ、左手でジャブを放った。
その軽い一撃だけで、チョウコウがガイコツめいた軍服に編み込んだ補強パーツ……銃弾すら弾く魔獣の骨が数本まとめてバラバラになった。
「こ、このジイサン、やることなすことおかしいぞっ」
「「た、たいちょう。援護します」」
「馬鹿、近づいたら殺されるぞ。作戦に集中しろ。俺は死なないっ!」
チョウコウは危険性にドン引きしつつも、上半身を傾けながら足を力強く踏み下ろして体勢を整え、カムロに対して両手突きを見舞う。
「はああっ、うおりゃ!」
しかしながら、チョウコウも己を鼓舞しようとするあまりに力みが過ぎたか、動きが直線的でバレバレだ。
「その意気や良し!」
カムロは半歩ずらして双手突きを避けつつ、チョウコウの足を軽く払う。
「え、え、ええっ」
「「隊長、距離をとって。でないと殺されてしまう」」
カムロの反撃がかすめただけで、チョウコウが膝部分に巻きつけてあったモンスターの毛皮がビリビリにほつれ、安全靴の金属板にバキバキと亀裂がはしった。
「どうした、チョウコウ。大口を叩くわりには、腰が入っていないぞ」
「じ、じじ、冗談じゃない、これ以上、クマ国の武神なんて相手していられるかっ。野郎ども、ちゃんと追い込んだぞ。ゲス長老どもの代わりに、このジジイにアレをご馳走してやれ」
「「うおおおっ、まかせろ隊長!」」
チョウコウはカムロと戦いながら、〝完全正義帝国〟の長老達から逃れるための仕掛けへと誘導していたらしい。
カムロが一歩踏み出すや、チョウコウの部下達が倉庫の壁に吊り下げた大型モンスターの胃袋を加工したらしき放水器を動かし、膨大な砂を噴出させて視界をふさぐ。
「ああ、目隠し。このために僕を挑発して、戦いながら誘い込んだのか。なかなかの策士じゃないか!」
あとがき
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