第696話 カムロ、左玄チョウコウと出会う
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「カ、カムロ。クマ国の総大将、大蛇殺しの武神か!?」
「クソ長老達を追いかけているんじゃなかったの!?」
「ま、まさか薬と食料を奪いに来たのか?」
「血も涙もない!」
牛頭に似た仮面をかぶる、足の見えない幽霊カムロは、コウリョウ村から放棄された物資を持ち出そうとするテロリスト団体〝完全正義帝国〟の兵士達の前へ飛び出したところ、とんでもない反応が返ってきた。
「名前を聞いただけで、ご挨拶だな……」
「「ひょえええっ、言葉のあやです。怒らないでくださひっ」」
カムロは思わず「なんでやねん!」と平手でパシッとツッコミを入れようとしたが、手を動かした瞬間に悲鳴をあげられたことで、毒気が抜けた。
ガイコツめいた軍服を身につけた兵士達は小さく縮こまりながら、なにやらブツブツと話し合っている。
「見張りに〝式鬼・野鉄炮〟を配置していたよな? 発砲音なんて聞こえなかったぞ」
「まさか、一〇体の野鉄炮を攻撃も許さずに消滅させたのか。クマ国の武神め、強すぎてどうかしているよ」
「こうなったら出るしかない、か」
カムロとしては、見知らぬ相手にここまで怯えられる謂れはないと言いたいが、〝完全正義帝国〟から見た自分は、やはり恐ろしいのだろうと自重する。
「悪いね、部下達が失礼した」
チンピラじみた格好の部下達は震えあがったものの、隊長らしき茶髪天然パーマの青年は、張り詰めた顔で冷や汗をかきつつも、ラガーマンのように肩幅の広い体で仲間を庇うように進み出た。
「俺は〝完全正義帝国〟の輸送隊長、チョウコウ……左玄チョウコウだ」
カムロは青年名前に聞き覚えがあった。
愛弟子である出雲桃太から、ウメダの里の顔役、田楽おでんを通して連絡があったからだ。
(たしか芙蓉格。保護した民間人の子が、信頼できると言っていた輸送隊長の名前だ)
カムロもまた周囲を見渡して、チョウコウが会話に足る相手だと判断する。
「輸送隊? それでキミ達は、銃も、屍体人形も使っていないのか?」
カムロがこれまで戦ってきた〝完全正義帝国〟の兵士達は、銃器を使うために手術されたサイボーグか、クマ国民の遺体を八岐大蛇で加工した屍体人形の使い手。そのどちらかであり、いずれも持たないチョウコウたちが輸送隊というのも、頷ける話だった。
「あいにく俺達は、クソジジイ……長老どもの覚えが悪くてね。後方輸送担当だからか、強い武器なんて支給されないのさ。カムロさんは、仮にもクマ国の総大将なんだろ。見ての通りの俺たちなんてウサギみたいな小さな獲物だ。放っておいてくれよ」
カムロはゆっくりと首を横に振り……。
「チョウコウ、そして輸送隊の皆。武器を捨てて降伏してくれ、命は保証する」
噛んでふくめるように降伏をすすめたのだが、チョウコウの反応は予想外のものだった。
「お断りだ!」
チョウコウは両手で門を左右に開くようなパンチでカムロを突き飛ばし、ラグビー選手も真っ青なショルダータックルをあびせかけ、回し蹴りで追撃を加えた。
(生存性重視の装備に加えて技も悪くない。〝鬼の力〟に惑わされることなく、生きる為に練り上げられた力だっ)
カムロは三連撃をすべて両の手で受け止めたものの、これまで戦ってきた〝完全正義帝国〟指導者達とは隔絶したチョウコウの気合いに、知らず頬を緩めた。
「俺たちは、水だけで無理矢理働かされてるガキどもに、たらふくメシを食わせてやるって、約束したんだよ。相手がクマ国最強の武神であっても、ここで捕まるわけにはいかない!」
あとがき
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