第693話 コウナン地方南部開放戦
693
「腕がめちゃくちゃ痛い。肩と腰も痛い。目まで痛い。空間斬りはともかく、飛燕返しは僕には無理だ。もう使うのはやめよう」
異世界クマ国の代表にして、牛頭に似た仮面をかぶる幽霊カムロは、愛弟子の一人、五馬乂の必殺技を模倣し、テロリスト団体〝完全正義帝国〟長老の一人である空戦将軍コリクをブリョウ山の採石場で撃破したものの……。
普段の戦闘スタイルとはあまりにかけ離れた技を使ったせいか、体の節々を痛めてしまった。
「葉桜万寿小隊長。痛み止めの薬を持って来て欲しい」
仕方がないので、遠隔〝通神〟用の手鏡を取り出し、後方に控えさせていた援護部隊の長、桃色の髪を縦ロールにまとめた鴉天狗の少女を呼び、薬を処方してもらう。
「はーい、鴉天狗自慢の百草膏をお持ちしましたあ。カムロ様も総大将なんだから、無理しちゃダメですよ。一度スワの里に戻られたらいかがですか? 山道を歩くのってたいへんですよ」
「なあに、こう言う時こそ大将の頑張りところさ」
カムロが万寿達と採石場を調査したところ、『南にあるコウリョウ村を物資貯蓄拠点として要塞化する』と記された資料を発見する。
「次の目的地は、コウリョウ村に決まったな。ここは石を切り出す場所だけあって、輸送用のジャンク船があるから、しばらくこれで移動しようか。万寿小隊長は部隊を率いて後を着いてきてくれ」
カムロは万寿達と別れて浅瀬用の帆船に乗り、南に向かって川をくだり始める。
翌朝、中途にあるレイリョウ山の中洲にて、東の山からサイボーグ兵の一団一〇〇名、西の河川敷より一〇〇〇体の偽天使人形に加え、巨大竜一匹とそれを操る老人の挟撃を受けた。
「コリクめ。口うるさくていまいましい男だったが、少しは手傷を負わせたようだな。〝陸竜人形〟のブレスと、〝兵士級人形〟の爆撃。サイボーグ兵〝猟犬獣鬼〟の銃弾。毒と火と鉄の嵐を受けるがいい。蛮族の王よ、お前は我が英雄譚を飾る一節となるのだ」
新たな敵指揮官は自信満々で吠えたけるが、カムロは冷静だった。
「サイのような顔に金銀で飾った鎧を見るに、お前は〝完全正義帝国〟の陸戦将軍ゲキシンか。この包囲されたシチュエーションは、桃太君にとっていい修行になるかも知れない。体はまだ痛いが、とりあえず掃除するか」
カムロは、船の中で筋肉痛でふらつきながらも立ち上がるや、棒切れの先に布を巻きつけたハタキを取り出した。
「鬼術・分身からの射出!」
そうしてハタキを数千に増やし、銃弾や爆弾にぶつけて相殺――。
「あべし、おごぱああっ!?」
「GAA!?」
そればかりか、膨大なハタキの弾幕でもって川の東側に陣取っていたサイボーグ兵一〇〇名を気絶させ、西側の空を飛ぶ天使に似せた屍体人形兵器一〇〇〇体をことごとく撃墜した。
「竜の犠牲となった人々よ。やすらかに眠れ。仇はここでとってみせる」
「GAA! GAAAA!?」
カムロはそう告げるや否や、飛び蹴りをはなち、ただ一体残された〝陸竜人形〟の頭を落として沈黙させる。
「こ、この日のために集めた屍体人形と、最強無敵の戦術がかくもたやすく破られるなど、悪夢か。こんなことはありえないっ」
「悪夢も、ありえないのも、人の死を冒涜するお前達だ」
カムロは怒りもあらわに右手を突き出すや、無駄に装飾した鎧ごとゲキシンの胸板を手刀で貫いた。
「は、はたきと素手で負けるだと? これが我が英雄譚の終わり? 童話じゃないんだぞ。こんな最期はいやだああっ」
ゲキシンは泣き喚くも、他の長老達と同様に〝鬼の力〟の汚染が進んでいたのか、肉体は赤い霧と黒い雪となって霧散した。
「ゲキシン、お前はその場違いな鎧と同じだ。英雄を気取るには貫目が足りんし、やったことが外道過ぎて童話にも不要だ」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)