第692話 カムロ、大ダメージを受ける
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「誰の一丁羅が似合っていないだと? カムロ、貴様が倒したマアキは、我ら〝完全正義帝国〟指導者の中でも最弱。あんな雑魚を倒してイキがるとは、まさに飛んで火に入る夏の虫よ。愚かなる獣の頭領め、腐り果てて醜い死骸をさらすがいいわっ」
異世界クマ国で生きる罪もない人々を虐殺した、〝完全正義帝国〟の財務長官オウタイは、屍を集めて作り上げた全長三〇メートルに及ぶ巨大な怪物〝陸竜人形〟に指示して、山一帯を枯らすほどの猛毒の吐息を吐き散らす。
「やってみろ」
しかしながら、牛頭を模した仮面をかぶる足の見えない幽霊カムロは、風と大地を蝕む毒の吐息を、雷をまとった長剣と炎を吹き出す短剣の二刀流で焼き払って突破。
「どうかやすらかに」
怪獣がごとき体躯を誇る全長三〇メートルの屍体人形を、足先から輪切りにして荼毘にふし、ついでに下品なスーツごと操り主を袈裟斬りにする。
「オウタイ。我が国の民を殺め、利用した貴様たちのような外道は絶対に許さん。死して贖え!」
「く、く、くクマ国代表は化け物か、ぎゃあああ」
カムロが斬ったオウタイは、先に逝ったマアキ同様に〝鬼の力〟に頭のてっぺんから足のつま先まで汚染されていたのか、肉体が赤い霧と黒い雪に変化して散った。
「犠牲となった者たちよ、仇は討ったぞ。どうか安らかに眠ってくれ」
かくしてカムロは、犯罪結社を主導する首魁のひとり、オウタイを討ち取った。
カムロは知らぬことだが、主席行政官と財務長官をたて続けに失ったことで、〝完全正義帝国〟の長老達が維持する指揮系統は瓦解。彼らが謳歌していた栄光の、終わりの始まりとなった。
「護衛のつもりだろうが、死体で作られた巨大な竜なんて目印があれば、捜索は容易い」
カムロはオウタイを葬った後、コウナン地方南部の山脈を流れる川に沿って徒歩で北上し、数日後にはブリョウ山にある採石場へと入った。
そこでは、三〇〇〇体もの空飛ぶ天使人形を連れた指揮官が、翼の生えた巨大な竜に乗って待っていた。
「地を這う虫ケラのボスめ。よくここまでやってきたか。我の〝陸竜人形〟は特別製で空を飛べるのだ。絶対安全圏からいたぶられる気持ちはどうだ? 爆撃をくらえ」
「耳、鼻、唇。ピアスだらけのその顔は、空戦将軍コリクだったか、乂は地上戦こそ得意だが、空戦の経験が少ない。この戦場条件はアイツを鍛えるのにはちょうどいいかもな」
カムロはそうごちるや否や、なにもない空中から銀色に輝く一振りの太刀を取り出して、愛弟子の技を試みる。
「奥義模倣・飛燕返しモドキ!」
カムロは雨のように降り注ぐ爆弾に対し、剣を閃かせ、あたかも動画の巻き戻し再生のように跳ね返した。
「は、反射とかありかあああっ!?」
「それだけじゃない。我が剣は、空をも断つ」
カムロは爆風に紛れて跳躍し、燕のように急角度で旋回する太刀筋を見舞う。
牛仮面の幽霊が繰り出す、空間をも切り裂く銀色の軌跡は、全長三〇メートルのドラゴンの背骨ごと、コリクを一刀両断した。
「こいつも〝鬼の力〟に汚染されたか、赤い霧と黒い雪に変わったな。〝完全正義帝国〟の指導者には、もはやまともな人間は残っちゃいないのか。……む、ぐはっ」
しかしながら、この一戦で、カムロは絶大なダメージを受けてしまう。
「腕がめちゃくちゃ痛い。肩と腰も痛い。目まで痛い。空間斬りはともかく、飛燕返しは僕には無理だ。もう使うのはやめよう」
あとがき
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