第691話 カムロと陸竜人形兵器、交戦開始
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「くそ、軍隊ならば警戒もできる。しかし、仮にも国家代表の癖に、単騎で突っ込んでくるカムロという鉄砲玉をどんな手で防げばいい?」
地球、異世界クマ国、異界迷宮カクリヨの三世界征服をもくろむ悪の犯罪結社、〝完全正義帝国〟の指導者である長老達は、自分たちの詳細な情報が漏れていることを知って恐慌状態に陥った。
安全だと思い込んでいたアジトがことごとく露見した今、彼らの命運は風前の灯火に等しい。
「「リノー、いますぐ援軍を寄越せ」」
「「今のままでは地球と異界迷宮カクリヨを制圧するどころではない。クマ国すら手に入れられずに狩られてしまう」」
「「お前達、実働部隊の代わりはいくらでもいるが、我々のような指導者の命に替わるものはない!」」
そして愚かなる大人達は、自分たちの負債を育てた子供達に押し付けるという、最悪の選択をとった。
(ばかめ!)
現場指揮官にして、参謀の地位にある白髪の優男リノーは、テレビと樹木を組み合わせたような見かけの〝通神装置〟から響く、無数のしわがれた声を聞いてほくそ笑む。
少年兵と大人達の立場は、いまや完全に逆転していた。なぜならカムロを警戒して兵力を動員すればするほどに、囮として目立つのだから。
「ええ、我らが偉大なる指導者のため、いくらでも融通しますとも」
かくして、リノーは虐殺したクマ国民衆の遺体から作り上げた屍体人形を、糸目もつけずに送りつけた。
空飛ぶ天使に似せた兵器〝兵士級人形〟はもちろん、戦車型兵器〝騎士級人形〟に加えて、全長三〇メートルの巨大な怪獣兵器、〝陸竜人形〟まで惜しみなく与えたのだ。その結果……。
「たとえ一騎当千の猛者とて、このドラゴンには叶うまい。異世界クマ国を手始めに、地球も、異界迷宮カクリヨも支配してくれるわ。ゆけ〝陸竜人形〟!」
妄執に狂った〝完全正義帝国〟の老害達は、強い力を手にしたことで思いあがり、リノーの思惑通り異世界クマ国コウナン地方南部の村々で虐殺を繰り広げた。
「そうだ。異界ででかいツラをする二本足の獣風情に、なぜ我ら選ばれし存在が怖がらなければならない。多くの死体を積み上げ、それを材料に人形を作れば我らは無敵だ。ぐひひ、ぐひゃひゃ」
全長三〇メートルの巨大な竜型人形を使って暴れれば、悪目立ちすること間違いない。
長老達が当初抱いていた『自分たちだけは安全圏で高みの見物をする』というプランはもはや完全に崩壊していたのだが、力に酔った彼らは危険性に気づきもしなかった。
「そのふてぶてしい顔と、無駄にテカテカして似合っていない地球式スーツ。お前は完全正義帝国の財務長官オウタイだな。怪獣ごっことは、人間の遺体をなんだと思っているんだ」
異世界クマ国の代表、牛頭に似た仮面をかぶった足の見えない幽霊カムロは、巨大なドラゴンを見つけるや、ムササビのように山間をくぐり、アメンボのように川面を蹴って、韋駄天のごとくに駆けつけた。
「誰の一丁羅が似合っていないだと? カムロ、貴様が倒したマアキは、我ら〝完全正義帝国〟指導者の中でも最弱。あんな若輩を倒してイキがるとは、まさに飛んで火に入る夏の虫よ。愚かなる獣の頭領め、腐り果てて醜い死骸をさらすがいいわっ」
あとがき
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