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第689話 カムロとおでん、桃太について意見交換

689


「そうか、桃太君はおでんの後ろ盾で正式に活動許可を得てクマ国を支援してくれているのか。ありがたいが、その発想はなかったな。てっきり紗雨の名を使って、〝前進同盟ぜんしんどうめい〟でも〝完全正義帝国スプラヴェドリーヴォスチ〟でもない、新たな第三勢力を立ち上げると思っていた」


 異世界クマ国の代表である、牛の仮面をかぶった足の見えない幽霊カムロは、弟子である出雲桃太いずもとうたが、建速紗雨たけはやさあめを利用して、とんでもない行動をとると仮定していた。


「カムロ、お前、なんてことを言うんじゃ。紗雨ちゃんは確かにお前に負けず劣らずの人気者じゃが、そんな真似をしたら、最悪の場合、クマ国が割れるぞ」


 カムロが遠距離〝通神〟中の、スワ大社に飾られた大鏡に映る、ウメダの里の顔役、田楽おでんが着込んだ赤いサマースーツとは対照的に顔色を青く染めた。


「それも想定のうちだ。桃太君は、僕の進める地球、クマ国、カクリヨを断絶させる〝三世界分離計画〟に反対している。僕の養女である紗雨を神輿にかついでテロリスト団体〝完全正義帝国スプラヴェドリーヴォスチ〟の討伐を成し遂げ、各里の支持率を稼いで僕にとってかわる、というのは、僕の計画を阻止する上で現実的な手段だろう」


 カムロは抑揚のない声でたんたんと告げるが、おでんは呆れるばかりだった。


「カムロ、いいかげんにせいよ。長年の疲労で、策略の毒が回りすぎじゃ。桃太君は相棒であるがい君と、目の前で危険に晒されている命を救いたいだけよ。お前を追い落とそうだなんてこれっぽっちも考えもしない。じゃからこそ、わしを倒せたのじゃろう」


 カムロはこの時、愛弟子が大金星をあげたと知って膝をうち、久方ぶりに笑い声をあげた。


「な、なにがおかしい。わしの話に、笑うところなどあったか?」

「いや、弟子の成長が嬉しくてね。そうか、桃太君は、おでんを倒せるほどに強くなったか」


 カムロは思う。おでんに勝つだけなら、自分でもできる。

 だが長年の荷物を下ろしたような雰囲気から察するに……、愛弟子は師匠にもときほぐせなかったライバルの悩みすら、どうにか解決してみせたらしい。


「僕がなにより嬉しいのは、あれだけ〝世界の危機には関わりたくない〟と言っていたおでんを前向きにさせたことさ。どうだい、桃太君と組んでおでん派でもつくってみるかい?」

「カカカ。そうじゃのう。おでんの力で水炊きやしゃぶしゃぶ、すき焼きを排除して、クマ国すべての鍋を統一! ……って何を言わせるんじゃ!」


 カムロとおでんは、互いに腹をかかえてゲラゲラと笑う。

 

「カカカッ! 八岐大蛇の首どもがやろうとしているのは、所詮、そのようなものよ。わしは以前と変わらず世界の関わる気はないが、後代の成長を見守るのも愉快だと思い出した。そろそろウメダの里も後進に譲って、私塾でも開くかのう」

「そうか。お互いに引退したら、記念に酒でも飲もう」


 カムロがそう返すとおでんは驚いたように目をしばたたかせた。


「ま、まさか口説かれるとは思わなかったのう。自分では老いたと思っていたが、わしの色気はまだまだ現役か?」

「おい、勘弁してくれ」


 二人はどっと笑い、穏やかな談笑はしばし続いた。


「〝完全正義帝国スプラヴェドリーヴォスチ〟をあやつる八岐大蛇・第六の首の対処は桃太君に任せよう。だが戦争は、迷惑をかけないようこっちで終わらせないとな」

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)


第一〇部の序盤は、カムロとクマ国視点で進みます。

五月二七日火曜日より投稿を再開するので、お楽しみに。

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>まさか口説かれるとは思わなかったのう。自分では老いたと思っていたが、わしの色気はまだまだ現役か? 2番「カムロもい女を見る目を養ったほうがいいでゲス」
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