第688話 前進同盟、動かずの理由と危機
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「まずいな。クマ国の反政府団体〝前進同盟〟は、オウモだから統率できたんだ。あいつが行動不能になって、あちこちで反乱を起こされたらたまったものじゃない。〝完全正義帝国〟め、まさかそれが狙いで刺客を送ったか?」
異世界クマ国の代表、牛頭を模した仮面をかぶる足の見えない幽霊カムロは、シナノの里スワ大社に飾られた大鏡を仲介に遠距離〝通神〟中の、ウメダの里の顔役、赤いサマースーツを着た麗女、田楽おでんから凶報を聞いて……。
彼の旧友にして現在の政争相手であるオウモが凶刃に倒れたと知り、背筋が寒くなった。
「おでん。蔵からカミムスビの作った酒を出す。生命力のこもったアレを使えば、オウモの傷も癒えるだろう。出所が僕だとわからぬよう回してやむてくれ」
「承った。カムロのそういう素直じゃないところ……いや、わしが言えた義理ではないか。反乱祭りの懸念じゃが、オウモが育てていた弟子が後継者となったおかげで、心配は無くなった」
「なんだってっ。あの婆娑羅学者に、弟子がいたのか?」
カムロにとって、オウモという素っ頓狂な元片腕に弟子がいたことは、天から槍が降るほどの衝撃だった。
「カムロ。だから、そなたが言う台詞では、いやいい。オウモが見出し、育てた冒険者パーティ〝G・C・H・O・〟代表の石貫満勒がオウモの代理人となり、〝前進同盟〟の組織中枢をうまく繋ぎとめている」
「石貫満勒。桃太君もおそろしく強い男だと褒めていたが、二〇歳程度の若者に、オウモの代役がつとまるものか?」
カムロの問いに、鏡の中に映るおでんは深く頷いた。
「実際は……、表を元勇者パーティ〝SAINTS〟幹部の六辻久蔵、裏は元〝K・A・N〟の懐刀だった晴峰道楽といったベテランが抑えているのじゃろう。事実、クマ国内でも一葉朱蘭の指揮の元、〝完全正義帝国の虐殺から脱出を図っているようじゃ。関係のうすい、名前だけ借りていたような集団は逃げ去り、あるいは反旗を翻したものの、組織としての求心力はむしろ強まったように見える」
「クマ国が〝完全正義帝国を倒すまで、石貫満勒と〝G・C・H・O・〟が〝前進同盟〟を統率してくれるのなら、その間は手を出す気はない。しかし、オウモのやつ……あんな性格の癖に、実は弟子育成もうまかったのか? この短期間でよく後継者を用意できたものだ!」
カムロはそこまで言って、はっと顔色を変えた。
「乂と凛音には、定期的に補給を送っているから良いとして……。おでん、桃太君はどうした? 素直に地球日本へ帰ってくれればいいんだが、彼の性格上、クマ国に残ったんだろう?」
「うむ。わしに冒険者パーティ〝W・A〟の活動許可をあおいだゆえ、佐倉みずちを後見役につけて承認した。活動許可の契約書は既にクマの里へ送っておる。また道案内として桃太君に同行する芙蓉格という少年から、〝完全正義帝国〟の内部事情を記したレポートや、要望書を預かっているから、時間ができたら目を通してくれ」
カムロはおでんから愛弟子の決断を立て板に水とばかりに聞かされて言葉を失い、やがてぽつりと呟いた。
「そうか、桃太君はおでんの後ろ盾で、正式に活動許可を得てクマ国を支援してくれているのか。ありがたいが、その発想はなかったな。てっきり紗雨の名を使って、〝前進同盟〟でも〝完全正義帝国〟でもない、新たな第三勢力を立ち上げると思っていた」
あとがき
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