第687話 田楽おでんからの連絡
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「カ、カムロっ。このお化けジジイがあっ! い、いやだ、しにだぐなああびっ」
異世界クマ国の代表カムロは、屍体を使った戦闘人形を増産するために、数十万人に及ぶ虐殺を引き起こしたテロリスト団体〝完全正義帝国〟指導者の一人、主席行政官マアキが鬼に喰われた残骸、〝赤い霧〟と〝黒い雪〟を雷と火の刀で焼き尽くし、荼毘にふした。
「……お化けだって? 最初からそう名乗っている。人でありながら、大蛇に魂を売って自滅した悪鬼よりマシだ」
カムロは疲れたように呟く。
この日、彼が破壊した五千体の死体人形を作るために犠牲となった一万人の死者は、反政府組織〝前進同盟〟に所属していたといえ、元はクマ国民だ。
これまでいったいどれだけの人間が〝完全正義帝国〟の魔手にかかったのかと思うと、人目もはばからずに泣き出したかった。
「カムロ様ありがとうございます! 御身に刃向かった罪は必ず償います」
それでもカムロはポーカーフェイスを保ち、虐殺から逃れた民衆をまとめる男性の手をとった。
「そうだね。悪いけど〝前進同盟〟に与した以上、無罪放免とはいかない。それでも、必ず元の生活を取り戻せるようできるだけのことをする」
「「うわああんっ」」
カムロは滂沱の涙を流してすがりつく生存者達を一人一人抱きしめて落ち着かせた後、今は再編されて対〝完全正義帝国〟特務部隊となった元防諜部隊ヤタガラスの小隊に連絡をとった。
「葉桜万寿、小隊長。〝完全正義帝国〟を支配する黒幕の一人、マアキを討って避難民の救助に成功した。彼らの治療を頼む」
「カムロ様。わっかりましたーっ」
カムロの弟子、出雲桃太の補佐役として派遣された葉桜千隼の従姉妹である、ふわっふわっの桃色の髪を縦ロールにまとめた、白い法衣が印象的な鴉天狗が率いる一隊が治療道具を手にかけつける。
この後、カムロは避難民を連れてシナノの里へ凱旋し、スワ大社に避難民受け入れのための、緊急対策本部を設置した。
彼がマアキを討ったことは瞬く間に広がり、コウナン地方南部に隠れ潜む〝完全正義帝国〟を操る他長老達を震撼させ、クマ国の民衆を大きく勇気づけることになる。
「カムロ、やっと連絡がついた」
そして居場所が判明したことで、桃太から伝言を預かっていた、ウメダの里の役場が地脈を使った緊急〝通神〟を執り行い……。
カムロが休息中のところ、スワ大社本宮に飾られた鏡が莫大な光を発した。
「カムロ、〝前進同盟〟の動きが鈍い理由がわかった。オウモめ、〝完全正義帝国との会談に赴いたところを襲撃されて、重傷を負ったようじゃ。待ち合わせの場所に現れた者の大半が屍体から作られた人形で、自爆攻撃を受けたらしい」
「あのバカ! いつかはこうなると思っていたんだ」
神社の大鏡に映る鴉の濡れ羽がごとき黒髪が美しい、赤いスーツを着た二千年を生きる付喪神、田楽おでんから報告を聞いて、カムロは衝撃のあまり無意識のうちに床を殴りつけた。豪快な音を立てて、木の床が円状に裂ける。
「おでん、オウモのやつ、命はあるのか?」
「ああ、護衛についていた黒騎士こと、呉陸喜が救い出したが、今は重傷で動けないとのことじゃ」
カムロは旧友が辛くも生き延びたとしって、ほっと息を吐いた。
しかし、今後の危険性を予想するや背中から冷や汗を流した。
「まずいな。クマ国の反政府団体〝前進同盟〟は、オウモだから統率できたんだ。あいつが行動不能になって、あちこちで反乱を起こされたらたまったものじゃない。〝完全正義帝国め、まさかそれが狙いで刺客を送ったか?」
あとがき
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