第685話 カムロ見参
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「カ、カムロだとおおおっ。異世界クマ国の武神、いや邪悪な皇帝め。なぜここがわかったあ? お前は我々に騙されてクマ国の反政府団体〝前進同盟〟を追いかけていたのではなかったのか!?」
闇に隠れてテロリスト団体〝完全正義帝国〟を導く長老の一人であり、今は〝鬼神具〟の力でツノの生えた人狼となったマアキは、想像もしなかった男の到来を知って、悲鳴にも似た叫びをあげた。
「……〝完全正義帝国〟と〝前進同盟〟は、元々同じ団体だからな。最初は勘違いしかけたが、乂と凛音が教えてくれた。僕にも頼りになる情報源がいるのさ」
およそ一カ月前、異世界クマ国の代表カムロは、反政府団体〝前進同盟〟が、コウナン地方ヒスイ河近辺で大量の武器や食料を集めるなど反乱の兆しを見せていたことを知って、自ら軍を率いて出立。
牛頭を模した仮面をかぶる足の見えない幽霊は、軍事演習と称して容疑団体を包囲しつつ、彼らの軽挙妄動を止めようとした。
〝前進同盟〟の代表であるオウモは、カムロとも旧知の仲であり、敗色濃厚な中、無理矢理に挙兵するような愚か者ではないはずだった。
「……いつもと違って警備の配置が非合理的だ。そもそもこの無謀なやり口は、オウモらしくないな」
しかしながら、カムロは現地にて異常を把握。まずは弟子である五馬乂と、彼のパートナーである三縞凛音を捜査員として送り込み、情報を集めることに専念。
二人の活躍により、虐殺の主犯が当初疑われた〝前進同盟〟ではなく、そこから離反した〝完全正義帝国〟だと判明する。
(二人の他にも〝前進同盟〟内部に潜ませた捜査員がいる。彼らの話では、オウモが〝完全正義帝国〟側の派閥と揉めたという情報もあった)
カムロと共に一度は八岐大蛇を撃退したこともある敏腕指導者、オウモの指揮下から離れたことで、〝完全正義帝国〟の防諜は瓦解したのだろうか?
その後は、何かと目立つリノーとゼンビンの後ろに隠れた、真の黒幕である長老達の居場所まで露見するなど、不自然なまでに詳細なら情報が流出していた。
カムロがマアキを発見できたのもその為だ。
(罠ではないかと疑って一人でやってきたのだが、心配のしすぎか)
カムロはこの時点で、『若手指揮官のリノーが〝完全正義帝国〟の主導権を握るため、邪魔な長老達を始末するために敢えて情報を漏洩させた』ことにすら、気づきかけていた。
しかし、直接相対したマアキがあまりに短慮かつ無能な人物であったがゆえ、逆に惑わされてしまう。
「〝前進同盟〟の次席行政官マアキ。否、今は裏切った〝完全正義帝国〟の主席行政官だったか。討たせてもらうぞ」
「ゲハハ。空を埋め尽くす空飛ぶ兵と、陸の巨人たる戦車に包囲されてハッタリも甚だしい。死ね、カムロ。死んで我が偉大な伝説を飾れ!」
マアキはカムロに向かって、里で殺した人々を素材に新たな人形を製造。伏せていた大量の人形と共に一斉に攻撃した。
「「カ、カムロ様。おにげください」」
「「我々は元は御身に反旗を翻したもの、どうか捨て置いてください」」
傷ついた人々は、カムロに逃げるよう勧めるものの……。
「心配無用」
カムロは幽霊らしく飛翔、右手の雷剣と左手の炎剣を掴み、空を飛ぶ流星のように人形の軍団中央をぶち抜いた。
斬る、斬る、斬る……。槍や砲弾といった攻撃手段はもちろん、まるでフライパンに載せた砂糖の山を溶かすかのように、マアキが糸玉で操る操り人形を消してゆく。
「はあっ!? たった一人で、一万体の死体から作り上げた、五千体の〝兵士級人形〟と〝騎士級人形〟を倒すだと、こんなことがあってたまるかあ!?」
あとがき
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