第683話 〝人形使い〟リノーの面従背反
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「まったく何十年前から時間が止まっているのやら……。嘘の大義、嘘の歴史、偽りのイデオロギー。我々は革命家を名乗る古臭いブルジョワに縛られている」
地球亡国の民である父祖の怨念に縛られた、テロリスト団体〝完全正義帝国〟の若き指揮官、白髪の優男リノーは嘆く。
「秘密裏に継いでいる者もいるようだが、我らの世代は姓すら奪われてしまった。働きアリに家は不要ということか」
異世界クマ国に保護された亡国民のうち、大半が融和と共存を目指す中……。
ごく一部の過激派は、〝保護されたこと〟そのものに恨みを抱き、クマ国の反政府組織〝前進同盟〟に協力しつつも、組織をのっとろうと暗躍。
地球上の故国を失う原因となった本来の仇、八岐大蛇・第六の首ドラゴンリベレーターの助力を受けて、秘密裏に〝完全正義帝国〟を結成し、クマ国を奪うべく反乱を計画していたのである。
長老達が、真面目に働くリノーやゼンビンの影に隠れて悪事を重ねた結果……。
地球人の故国帰還を目指す〝前進同盟〟代表であるオウモの知らないところで強力な式鬼や、〝内部空間操作鞄〟といった軍需物資が地球のテロリスト達に流出し、異世界クマ国と地球の関係をおおいに拗らせていた。
「長老達の話を信じるならば、蜂起前日に目障りだった〝前進同盟〟代表オウモの暗殺に成功し、排除したとのこと。取引のあった関係団体が〝完全正義帝国〟への鞍替えを申し出ているし、外様の一葉朱蘭をのぞき、組織的な抵抗も見られない」
〝前進同盟〟は、地球のさまざまな国、さまざまな勢力と取引を重ねた結果、後ろ暗い反社会組織とも繋がりを持ってしまった。
そういった悪逆な組織が昨日までの取引相手を、今日の獲物とみなすのはよくあることで、高級装備や技術資料、あるいは単純に金銭を狙う、襲撃の対象になってしまった。
無力な草刈場になることを阻止できなかった以上、オウモが現在、指揮をとれない状況にあるのは確かだろう。
だが、仮にもクマ国代表カムロを相手に、政治面で互角に渡り合った傑物だ。油断はできない。
「地球の勇者……、あの出雲桃太に〝火龍アテルイの遺産〟が渡ったところをみるに、ひょっとしたらオウモはどこかで生きていて、反撃の機会をうかがっているのかも知れない。ならば、私も先達に習うとしましょう」
リノーの推察は、桃太が戦闘艦トツカを得るくだりこそ間違えていたが、オウモの生存などは、大体が正鵠を得ていた。
「今の〝完全正義帝国〟は、八岐大蛇、第六の首ドラゴンリベレーター様から直々に恩寵をいただいた私やゼンビンではなく、腐敗した長老達が構成員に無駄な指図をして足を引っ張る、誤った状況にある。この不正は正さなければならない」
リノーは笑う。凄惨に。
「〝前進同盟〟代表オウモの次に排除されるべきは、我らが〝完全正義帝国〟長老達のような、革命家きどりの老皇帝どもだ。革命に寄生する罪深いブルジョアは全員、此度の戦いで退場してもらう。異世界クマ国の武神カムロという強大無比な敵を惹きつけるために役立ってもらいましょう」
あとがき
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