第67話 〝暗黒鬼士〟黒山犬斗の策謀
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出雲桃太は、仮面となった乂との連携攻撃で、遂に勇者パーティ〝C・H・O〟の代表、三縞凛音を倒した。
「良かった。これで無益な戦いも終わるっ」
「桃太おにーさん、伏せて!」
しかし、決着の直後――。
空飛ぶ白銀のサメ、建速紗雨が絹を裂くような叫びをあげる。
「出雲君、よけなさいっ」
凛音もまた、残された機械仕掛けの義耳をアンテナのように立てながら、桃太を突き飛ばした。
次の瞬間、ダン! ダン! という八発の銃声が静寂な広間を撃ち抜いた。
「グヒヒ、これぞ漁夫の利って奴よ」
決戦場となった広間の中央。
異界兵器〝千曳の岩〟にいつの間にか現れた髭面の幹部、黒山犬斗が義足に仕込んだ銃口から、桃太と凛音に向かって弾丸を放っていたのだ。
「紗雨ちゃん、助かったっ。……三縞代表!?」
桃太は凛音に突き飛ばされ、サメ姿の紗雨を巻き込みながら倒れ、銃弾の回避に成功した。されど彼を庇った少女は、至近距離から四発の弾丸を浴びてしまう。
「黒山、貴方はいまさら駆けつけた挙句に、どうしてこんな真似を、かふっ」
凛音の口から鮮血がこぼれ、和服の白地を赤く染める。
「グヒヒ、馬鹿め。貴様と鷹舟の首を手土産に、四鳴家と勇者パーティ〝S・E・I〟に寝返るためよ。所詮は、箱入り娘にチンピラ剣士よな。エリート官僚たるわしの思い通りに踊ってくれた」
桃太は、黒山が前触れもなく出現したこと、凛音が平然と受け止めたことから、元官僚の策に気付くことができた。
「そうか。鷹舟副代表は〝茨木童子の腕〟を、三縞代表は〝ホルスの目〟を鬼神具として使っていた。〝千曳の岩〟と契約していたのは、お前だったのか、黒山犬斗!」
「グヒャヒャ。そうとも、小娘は〝ホルスの目〟で地上を観測するレーダー役。そして、罪を押し付けるためのスケープゴートだったのよ」
桃太の問いに、黒山は勝ち誇るように笑い、獣の内臓めいた生体部品と機械仕掛けの歯車が回る岩山に登る。
「勝手なことを!」
「凛音の想いを使用したか、ゲス野郎め」
「最低な大人サメエッ」
桃太は乂と力を合わせ、紗雨と共に殴りかかるも、黒山は〝千曳の岩〟と混ざり合って変身。
「舞台蹂躙、役名変生――〝豹口鬼・フラウロス〟! グヒャヒャ!」
全身に呪文の入墨を刻まれた、全長五メートルに達する豹の魔人となって、額に十字傷を刻まれた少年と空飛ぶサメを吹き飛ばした。
「牛仮面に車輪鬼は破壊されたが、わし自身がアレを超える力を得ればいい。小娘にも実験体となってもらうぞ」
「何をふざけたことを、あ、ああっ」
凛音の和服がびりびりと裂けて、白い肉体が赤く泡立つように膨らみ、黒い雪に覆われた。
黒山が撃ち込んだ呪いの銃弾のせいで、遥花と同じように〝鬼の力〟が暴走しているのだ。
「舞台蹂躙、役名変生――〝炎猫鬼・アイム〟AAAAAA」
凛音の破壊された義眼が再生し、猫の瞳の如く癒着した。
全裸となった彼女の肉体は火のついた毛皮に覆われて、彼女の口を塞ぐように松明が加えられ、全長三メートルの魔猫へと変貌した。
「グヒヒ。愚民はな、奴隷らしくエリートたるわしに使われているのが幸せなのよ。それが出来ぬと言うなら、目撃者は消さんとな。死ねやああっ」
「うわああ」
アイムが松明から放つ炎によって広間は炎に包まれ、フラウロスが天井に転移させた像や柱の残骸が雨のように降り注ぎ、桃太達は燃える岩石に押し潰された。
「グヒャヒャ、わしの完全なる勝利だ」
あとがき
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