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第682話 〝完全正義帝国〟の過去と妄念

682


「みずちさん、イタル君。行きましょう」

「「はい」」

「出発サメエ!」


 額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太いずもとうたとサメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨たけはやさあめら四人が、空飛ぶ戦闘艦トツカを降りた翌日……。


 西暦二〇X二年九月四日。

 異世界クマ国で前代未聞の大虐殺を引き起こした〝完全正義帝国スプラヴェドリーヴォスチ〟の若き幹部、白髪の優男リノーは、長老達が発する非合理な命令の対処に追われていた。


「比較的安全な西部戦線で狩に興じている癖に、〝進軍を早めろ〟や〝攻略箇所を優先しろ〟というのもムカつきますが、〝女やご馳走を用意しろ〟とは呆れますね。

 かつては地球で革命を志した歴戦のツワモノとうそぶいていますが、今となっては利権をむさぼる亡者、いえ悪鬼ですね。何十年前の妄執にこだわっているのやら」


 リノーは、河原にうず高く積まれた死体を八岐大蛇、第六の首ドラゴンリベレーターからもたされた〝蛇の糸〟で縫い合わせ……人形兵器、〝兵士級人形ソンダート〟と戦車型兵器〝騎士級人形ルイツァリ〟の増産しながら、まだ自分が生まれてすらいなかった、西暦一九四〇年代に思いを寄せる。

 第二次世界大戦の終結から間をおかずして、地球は西側諸国と呼ばれる自由主義陣営と、東側諸国と呼ばれる共産主義陣営の二つに分かれて睨み合い、小規模な紛争を繰り返す冷戦状態にあった。

 しかし、西暦一九六一年の秋、東側諸国の雄たる某軍事大国が行った新型兵器の暴走により、この状況は一夜にして姿を変える。

 五〇メガトン級の〝核兵器に似た何か〟が爆発したことをキッカケに、実験場となった北極海雪原に、異界迷宮カクリヨへ繋がる〝裂け目〟が生じたからだ。


「ドラゴンリベレーター様のような、異界迷宮カクリヨを支配する八岐大蛇の首が干渉した可能性もありますが、どうなんでしょうね。我らが父祖が力を欲してやり過ぎた可能性と、いったいどちらが高いものやら……」


 次元の扉からは、ドラゴンが変じた〝赤い霧〟と〝黒い雪〟が噴出ふんしゅつし、彼らの眷族けんぞくたるモンスターが這い出して、実験を行った強国を含む東側諸国は崩壊。

 これらの国々の生き残りは、異界迷宮カクリヨを通じて脱出し、もうひとつの異世界クマ国に逃げ延びて、保護された。


「実際には〝鬼の力〟を巡る内紛で我らの祖国が滅んだという話もありますが、今更何を言ってもせんなきことでしょう。クマ国代表カムロは干渉を望まず、我らが父祖は新天地でやり直す機会を得た。なのに」


 地球亡国の民のうち、半分はクマ国に帰化して根をおろすか、もう半分は地球への帰還を支援する政治団体〝前進同盟ぜんしんどうめい〟と協力して失われた故国へ帰るための奮闘を始めた。

 しかし、平等を建前にやりたい放題だった一部の独裁者や、その取り巻き達は、真の平等を前に不平不満を募らせたのだ。


『なぜ偉大なる我々が、二本足の獣に大きな顔をされねばならん』

『必ずやこの世界を我らのものに。そして地球、カクリヨを支配して、三世界征服を成し遂げよう』

『子供達よ、我らの無念を晴らすのだ』


 驕り高ぶった支配者の末裔達は、自分たちが追われた地球はもちろんのこと、保護してくれたクマ国に対しても劣等感と悪意をたぎらせて、子供達に都合のいい嘘を吹き込んだ。


「まったく何十年前から時間が止まっているのやら……。嘘の大義、嘘の歴史、偽りのイデオロギー。我々は革命家を名乗る古臭いブルジョワに縛られている」

あとがき

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>嘘の大義、嘘の歴史、偽りのイデオロギー。我々は革命家を名乗る古臭いブルジョワに縛られている 金鍍金「反革命的だ!」
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