第679話 艦長代理と航海長の任命
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「この戦闘艦トツカはどうするんです? オオバカリさんに認められた艦長は出雲サンですよ」
「戦うだけなら徒歩でも構わない。慣れているしな。だが、避難民を助けだし、安全地帯まで離脱させるには戦闘艦トツカが必要だぞ」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、冒険者パーティ〝W・A〟の遊撃隊をまとめる関中利雄や、術師隊のリーダーである羅生正之に引き止められたものの、別行動をとる決意は変わらなかった。
「……関中、羅生。今回のリノーとの交戦と、避難民の救出でわかった。俺は艦長席にいても飾りにしかならない」
桃太の言葉を聞いて、艦橋に集まった面々は思わず目をむいた。
「飾りってことはないだろうよ。出雲がその耳で、敵の情報を逐一教えてくれたから、おれたちは勝てたんだ」
モヒカンが雄々しい大柄な少年、林魚旋斧が目をむいて訂正する。
桃太は、テロリスト団体〝完全正義帝国〟との戦いで、搭乗者の能力を引き出すという戦闘艦トツカによるブーストもあったといえ、未来予知に近い戦況分析や、攻防の先読みを実現していた。
「でも、このままだと出雲サンを切り札ではなく、〝斥候〟としての役目に縛り付けるってことですよね。常葉山の戦いは手探りだったからそうしたといえ、それじゃあおれたちが不甲斐ないってものです」
「そうだな。出雲の強みは、〝W・A〟の中でも随一の柔軟性と攻撃力だ。最大戦力をサポートに専念させるのは、確かにもったいないなあ」
林魚、関中、羅生といった男子生徒達も頭を抱えて悩む。
戦闘艦トツカは、確かに強く早く頑丈だ。
だが、一千年前に火龍アテルイが、異世界からの侵略であるドラゴン達との戦争を前提に建造したこともあり、局地戦では小回りがきかない。
クマ国代表カムロが、異界迷宮カクリヨへ後退したドラゴンの末裔たる八岐大蛇との戦いで、この空飛ぶ船を使わなかったのも、そういった理由からだろう。
弟子である桃太の場合も、艦長職に控えさせるより、前線で殴り合いに専念させる方がより柔軟な戦闘が可能だ。
「オオバカリさんやみずちさんとも相談したんだけど、今後は地上部隊による〝完全正義帝国〟支配圏の捜索と、戦闘艦トツカの機動力を生かした避難民救出……。二部隊に別れての作戦行動をとろうと思う。俺は名目上、艦長を続けるけど、祖平さんに艦長代理を、柳さんには航海長をお願いしたいんだ」
桃太の提案を聞いて、瓶底眼鏡をかけた白衣の少女、祖平遠亜と、サイドポニーの目立つ式鬼使いの少女、柳心紺は目を見開いて驚いたものの……。
「BUNOO(さんせい、だいさんせい。よいどめのじゅつをならうんだ♪)」
「……わかった、出雲君。引き受けるよ」
「ブンオーにしばらく乗ってあげられないのは残念だけど、大切な船を預かるんだ。やってみせるよ」
二人の足元で丸くなっていた八本足の虎に似た式鬼ブンオーが必死にすがったこともあって、彼女達は桃太の提案を受け入れた。
「では今後、祖平様をキャプテン、柳様をチーフナビゲーターとお呼びします」
あとがき
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