第677話 常葉山の戦い、そのおわり
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「葉桜さんっ。決着は頼んだっ!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、己が必殺技〝生太刀・草薙〟にて、全長三〇メートルもある巨大な怪獣、〝陸竜人形〟に壊滅的なダメージを与えつつ、前髪の長い中性的な鴉天狗、葉桜千隼に最後の一撃を委ねた。
「出雲様、任されました。殺められた同胞の無念、我が一撃で晴らします。どうか安らかにお眠りください。クマ国代表カムロ様より授かった奥義、〝八雷神〟がひとつ、〝若雷神〟!」
千隼は、桜色の蛇腹剣をバラバラに分解してまばゆい雷光を放ち、ドラゴンの肩や脚といった肉体を構成する〝蛇の糸〟を焼き払い、クマ国民の死体から作られた陶器状のパーツを弔った。
「ウソだ、私が手のひらの上で転がされたというのか、カムロならまだしも、こんなガキどもに!」
テロリスト団体〝完全正義帝国〟の指揮官である、白髪の優男リノーは、草薙による浄化を利用して〝陸竜人形〟の頭部から辛くも脱出したものの……。
八岐大蛇、第六の首ドラゴンリベレーターに力を分け与えられ、〝人形使い(ドールマスター)〟の役名をもつ彼にももはや戦うすべはなく、優男の仮面をかなぐり捨てて地団駄を踏んだ。
その一方で、桃太と千隼は互いの健闘をたたえあう。
「さすが葉桜さんだ。見事な一撃だった」
「いえいえ、桃太様こそ以前よりずっとお強くなられた。草薙の範囲が広がって驚きました」
千隼はかつて誤解から桃太と争った時、実際に受けた経験から、威力の変化に驚いた。
少なく見積もっても以前の五倍……半径一〇メートルが、敵味方識別の範囲攻撃対象になっていたからだ。
「おでんさんが作った迷宮〝U・S・J〟で鍛錬したおかげかな。リーチが大幅に伸びたよ。まだまだ師匠、カムロさんには及ばないけれど」
桃太に必殺技を伝授した、異世界クマ国代表のカムロは半径五〇〇メートル規模を鼻歌混じりに連発できる。頂点はまだまだ遠いのだ。
「リノー。アンタを捕縛する」
「出雲桃太。できるものなら、やってみろ……」
桃太はリノーに掴みかかるも、その瞬間、白髪の優男の体はもろくも崩れてしまう。衣服も、人形達を操っていた棍棒も、積み木の塔が倒れるがごとく、肉片と骨になって崩れ落ちる。
「しまった。おでんさんが使ったものに似た憑依術だ。今まで戦っていたのは人形だったのかっ」
「鬼神具もレプリカですか」
桃太と千隼が周囲を探ると、遠方から声が届く。
「ええ、〝蛇の糸〟は持ち歩けるのですよ。念の為、私自身を模した人形を代理に出したといえ、まるで詰将棋のようにやられた。敬意を表します」
焼かれた村より更に奥、コウナン地方一帯に広がる常葉山の山道に砦が組み上げられていた。
「貴方達の強さはわかりました。しかし、六体の〝陸竜人形〟が守るこのヒスイ城は抜けられますか?」
死人を操り蛇で縫い合わせた大型ドラゴン六匹が山のように鎮座して、砦を守護している。
「くそ、まだ戦力を隠していたのかよっ」
「あんなにも大きな怪物が六体って多すぎる!」
「そうか。自勢力の村を焼くなんてなぜかと思ったら、資材としての死体が目的か?」
桃太や、冒険者パーティ〝W・A〟のメンバーは、〝完全正義帝国〟の悪辣さと厄介さに、改めて背筋が冷えた。
「ふざけやかって、戦争でもおっぱじめる気かよ!」
「林魚サン。戦争ならもう始まっていますよ」
「出雲はどうする。今からあれに挑むか?」
桃太は船から届くクラスメイトの声を聞いて、渋々首を横に振った。
すでに半日に一回という回数制限がある草薙という奥の手を使い、パーティメンバーも疲労と船酔いで、いっぱいいっぱいだ。
「探していた乂はいないけど、避難民救出には成功したんだ。今は撤退する。だがリノー、次にあったアンタは倒す」
「やってみせろ、地球人。私は八岐大蛇、第六の首ドラゴンリベレーター様の力で、三つの世界を解放してみせる」
あとがき
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