第676話 〝生太刀・草薙〟の成長
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︎「馬鹿なことをするな、リノー。そんなことをして何になる?」
「我々の同胞の遺体をどこまで弄べば気が済むんだ!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、前髪の長い中性的な鴉天狗、葉桜千隼は抗議するものの……。
元地球人のテロリスト団体〝完全正義帝国〟の指揮官である白髪の優男リノーは一顧だにせず、全長三〇メートルの巨大怪獣〝陸竜人形〟と一体化し、上半身と下半身が泣き別れして真っ二つとなった、体を再生せんと蛇糸を操った。
「出雲桃太、葉桜千隼っ。言いたい放題言ってくれる。これだから、ものを知らない資本主義国のガキや異世界の獣は困るんだ。これこそ八岐大蛇、第六の首ドラゴンリベレーター様がもたらしてくれた世界を変える力、〝融合術〟だ」
リノーは桃太と千隼によって分断された胸部と大腿部を蛇の糸で繋ぎ、更には空けられた腹の大穴を、天使に似せた死体人形〝兵士級人形〟や、獅子の顔、山羊の体、蛇の尾をもつキメラ〝騎士級人形〟などを作って埋めた。
「私達は三世界の命あるもの全てを踏みつぶし、虚無へと解放するまで止まらない!」
リノーと一体化した〝陸竜人形〟が千隼が巻きつけた蛇腹剣の拘束を破って立ち上がると、背から突き出した骨格からコウモリのような翼が生え、重厚な鱗と角質的な外皮も再生する。
そうして巨大な怪物は、咆哮と共に低空を飛びながら暴れ始めた。
「これが無敵の力だあ」
リノーは切断された前足のパーツを加工して、塔のように巨大な剣をつくりあげ、砲台代わりとなった腹の偽天使人形から槍を投げ、戦車めいたキメラ人形の口から砲弾を放ち、がむしゃらに攻撃を加える。
「我流・長巻」
だが、やけっぱちのラッシュなどそうそう当たるものではない。
桃太は風で攻撃を感知し、腕に巻きつけた衝撃の刃で逸らしながら、一気に間合いを詰めて、竜の後ろ足かかとへ飛び移り、大腿部、腹部、肩と跳躍を繰り返しながら首筋を深々と切り裂いた。
「出雲様、蛇切丸で援護します」
千隼もまた、桜色の蛇腹剣を鞭のように伸ばして、暴れる怪物の翼を引き裂きつつ、肉体の一部となった偽天使人形、戦車キメラを牽制する。
「リノー、苦し紛れの〝融合術〟なんて怖くもなんともない。おでんさんとみずちさんが使った〝融合術〟なら、逸らすことも避けることもできなかったぞ!」
「出雲様。そのお二人はカムロ様に並ぶクマ国最強戦力ですからね。戦える貴方や紗雨姫が強いのです!」
軽口を叩き合う二人は、もう勝利を確信していた。
「くそがっ。こうなったら高空からのブレス攻撃でっ」
リノーは背中の翼をはためかせながら、空高く飛ぼうと試みるものの、桃太が首元までたどり着いた以上、もはや遅すぎた。
「リノー。真の切り札は最後までとっておくもの、だったか。目の玉を開いて見るがいい。これが、俺の切り札だ。〝生太刀・草薙〟!」
桃太は大上段から手刀を振り下ろし、衝撃の雪崩を〝陸竜人形〟へ叩きつけて、ブレスを吐こうとした喉を消し飛ばした。
「なにがジョーカーか。知っているぞ、その技の効果範囲はわずか半径二メートル。これでは私は倒せない」
〝完全正義帝国〟が事前に把握していた、〝生太刀・草薙〟の効果範囲はわずかに半径二メートル。
リノーと一体化した全長三〇メートルもある空飛ぶ巨竜を仕留めるには、まったく足りない。
「そいつはどうかな? 男子三日会わざれば刮目して見よってね。千隼さんとの出会いから、ずっと強敵と戦い続けて鍛えられたんだよ」
しかし、桃太が剣を薙ぎ払うがごとくに生み出した衝撃波の嵐は、従前の情報よりもはるかに広い。
〝陸竜人形〟のもつ大剣や腹部の砲台はもちろん、背からのびる翼も、重厚な鱗と角質的な外皮に守られた胴も……、頭から肩にかけた上半身の一部と、脚部を残して全体の三分の二を蒸発させた。
「葉桜さんっ。決着は頼んだっ!」
あとがき
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