第66話 秘策炸裂
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「左の瞳は、月となりて万象を見通す。出雲君、隠れても無駄よ。貴方の行動の全てを計算し、未来さえも予測してみせるわ」
凛音は、アンテナのような機械の耳をたて、ガラス細工のような赤い瞳で桃太を見つめる。
そのたびに熱線が放たれて、彼女が映す世界を炎で焦がす。
桃太は、彼女の視界を遮る石像に隠れようとするも、片端から灰にされる。
(相棒、これじゃまったく近づけないぞ)
「空間転移兵器〝千曳の岩〟で、ああも的確に地上へ砲撃できた理由がわかったよ。彼女の分析能力は脅威だ。でも視線である以上、攻撃は直線に留まるはずだ。タイミングを読んで避ける!」
桃太は宣言通りに熱線を回避するが、仮面となって念話中の乂はともかく、彼の言葉は捕捉されていた。
「出雲君、ワタシの〝ホルスの目〟は、貴方を見通すと言ったでしょう? 戦闘中に独り言なんて余裕ね。アドバイスをありがとう。線で駄目なら面で攻めればいいのね」
桃太は絶句した。ようやく回避のコツを掴んだと思いきや……。
凛音は視線で空気を燃やして、広間を埋め尽くすほどに膨大な、炎の弾幕、否、炎の壁を飛ばしてきたからだ。
(あ、相棒。こ、これは避けられないのでは? サメ子のように穴でも掘るか?)
「サメエエエッ……、もうサウナはこりごりサメエッ」
空飛ぶサメの格好をした紗雨は、鼻先に水のドリルを作って穴を空け、地中に逃れていた。
「……いいや、ここからは俺と乂のターンだ。三縞代表、最後の最後で〝鬼の力〟のゴリ押しに頼ったのが貴女の敗因だ!」
桃太は瞳を青く輝かせ、〝巫の力〟で乂の能力を引き出した。
右拳で広間に風を起こし、火の狭間にある酸素を逃すことで、真空状態を作り上げる。
そうして、あたかも海を割るように、眼前の炎の壁を真っ二つに断ち割った。
(アメイジング! 確かに酸素が無きゃ火は燃えない)
その強引な突破方法は、仮面となった乂も驚くほどだ。
「読み合いなら負けない。ここはもう、俺達の距離だ!」
額に十字傷を刻まれた少年は、火の海に穿たれた通路を疾走し。
機械の瞳と耳を持つ和装少女は、口角をあげて迎え撃つ。
「出雲君。貴方も読み合いと言うには、ずいぶんと力任せよ」
実のところ、凛音にそう思い込ませることこそ、桃太の策に他ならない。
(乂。俺じゃあ、三縞代表に未来を予測されて倒せないだろう。だから最後の一撃は相棒に任せるよ)
(ガッデム! この土壇場で身体の主導権をオレに預けるのかよ? まったくクレバーな奴だぜ)
桃太は風をまとったまま、最速最短で、凛音との間合いを詰める。
「貴方の動作は、計算済みって言ったでしょ。最後の一撃は、右の拳――!」
凛音は両手で印を結んで、全身をカバーする〝黒い雪〟の鎧をまとい、桃太の右手を狙って熱線を発射した。
「凛音、悪戯の時間は終わりだ。また明日遊ぼうぜ」
「まさか。その声、その言葉、どうして?」
凛音が桃太の右手を狙ったカウンターは外れ、〝鬼の力〟を振り絞った渾身の防御も、わずかにタイミングがズレた。
「――変幻抜刀・疾風斬!」
その刹那が決定打となり、乂が〝左手で〟握った、黄金に輝く短剣が、凛音の〝鬼神具〟たる義眼、〝ホルスの目〟を破壊した。
あとがき
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