第672話 総力戦
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︎「出雲桃太、そして冒険者パーティ〝W・A〟。異世界クマ国代表カムロと戦うまでは温存する予定でしたが、冥土の土産に披露しましょう。我ら、〝完全正義帝国〟の切り札〝陸竜人形〟を!」
狂気に目を血走らせた白髪の優男リノーは、異世界クマ国の代表、カムロと遭遇した時のために伏せていたのだろう、無数の蛇の意図が絡まった糸球を掘り起こし――。
テロリスト団体〝完全正義帝国〟が虐殺した里の犠牲者全ての死体を結いあげて、塔や寺院にも匹敵する全長三〇メートルはあろう蛇に似た怪物をつくりあげた。
「GAAAAAA!!」
否、たとえ似ていても足や翼の生えた蛇は、もはや蛇に非ず、地を這うドラゴンとでと言うべきか。
死体を重ねて作ったとは思えないほどに強靭な四本の足をもち、背には傘の骨に似た翼の骨格が生えている。
重厚な鱗と角質的な外皮に守られた怪物は、畑も道も踏み砕き、大地を揺らしながら歩き出した。
「「おいおいマジかよ。俺たちはいつから特撮映画の中に入ったんだ」」
地球から来た冒険者パーティ〝W・A〟のメンバーは、死体から作られたパーツを組み合わせ、全長三〇メートルと怪獣映画さながらの巨体となった〝陸竜人形〟を見て、あまりの非現実感に立ちすくみ……。
「「この地獄に、際限はないのか」」
怪獣を擁するテロリスト団体〝完全正義帝国〟に追われる避難民達が絶望で足を止めてしまう。
「GAA! GAAA!!」
巨大な陸竜が長い尻尾を振り回すだけで、丈夫な木々が何十本とまとめて倒れ、口から吹く毒のブレスは、それだけで常葉山一帯に広がる森を溶かしつくすほどだ。
「我々は三世界を征服する選ばれしもの! ゆえに勝ち続けねばならないのですよ。
愚かなる敗者に、教訓をひとつ教えてあげましょう。切り札は何枚用意しても構いませんが、真なるジョーカーは最後までとっておくもの。
さあ、陸竜人形よ。あの空飛ぶ船を撃ち落とし、喰らいなさい」
蛇糸を操る白髪の優男リノーの指示に従って、クマ国で虐殺された人々の死体で作られた全長三〇メートルのドラゴンは大きく息を吸う。
「毒のブレスを放つつもりか。俺が出るっ」
パーティの総大将である、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、剣に似た空飛ぶ船トツカと民間人を守るために艦橋を飛び出そうとするも、戦闘指揮をとる瓶底メガネをかけた白衣の少女、祖平遠亜に腕を掴まれた。
「出雲君。あのリノーとかいう、優男の言う通りよ。こちらも貴方というジョーカーを温存しているの。だから、今は座っていて。出番はすぐあとよ」
「桃太おにいさん。まずは紗雨が、そしてパーティの皆がいいところ見せるサメエ。みずちさん、力を貸して欲しいんだサメエ」
「ええ、一緒に戦いましょう。変化!」
サメの着ぐるみをかぶった紗雨が竪琴に変じたみずちを爪弾くや、戦闘艦トツカをの前面に滝のごとき巨大な水壁が生じ、山一つを消し飛ばすほどの毒のブレスを受け止める。
「〝兵士級人形〟、〝騎士級人形〟も後に続けっ。無防備な民衆が背後にいる以上、あの戦艦も避けられまい!」
その後に、空飛ぶ死体人形が槍を投げ、戦車キメラが砲撃する。それらは的確に水壁を迂回して、戦闘艦トツカの横腹を突くも……。
「「ぐほおおっ、ふ、船酔いしている場合じゃない!」」
ブリッジ付近から突如湧いてきた、無数の火球や氷柱といった術に阻まれた。
部下を八つ当たりで粛清したリノーには理解できるはずもないことだが、この戦場で戦っているのは桃太だけではないのだ。
「冒険者パーティ〝W・A〟の底力を見せるぞ!」
「出雲サン以外は、モブだと舐められちゃあ困ります!」
「たった一人で五〇人に勝てると思うなあ!」
あとがき
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