第671話 リノーの悪意
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︎ 「「GAAA!?」」
「「わ、我々の切り札がっ。こんなバカなああ!?」」
冒険者パーティ〝W・A〟が誇るエースの一人で、現役の〝鬼勇者〟でもある赤い髪を二つのお団子状に結ったグラマラスな少女、六辻詠が放った光の刃は、。あたかも慈雨のように空から地上へ降り注ぎ――。
テロリスト団体〝完全正義帝国〟が死体を元に組みあげた、死者を冒涜する兵器の数々を、あたかも限界まで膨れた風船を割るように爆発四散させた。
「うおおおっ、出雲の言う通り、エネルギーが臨界だったのか」
「さすが詠様。戦車が紙細工のようにちぎれてゆくぜ」
空飛ぶ戦闘艦トツカのブリッジで見守る学友達は、ある者は拳をつきあげ、ある者は詠を胴上げしながら歓声をあげる。
屍体人形は多少壊れた程度なら、遺体を加工した陶器状のパーツを蛇の糸で縫い合わせて修復可能だ。
されど、エネルギーをめいっぱい溜め込んだところを破裂させ、跡形もなく吹き飛ばしたことで、今回倒した分の人形は再生不可能だろう。
「「す、すごい! 助かる気がしてきた」」
桃太が率いる冒険者パーティ〝W・A〟の仲間達も、〝完全正義帝国〟の戦力を壊滅させたのを見て……
「オウモ様と乂さんが見込んだ、出雲桃太様と冒険者パーティ〝W・A〟なら、勝てる?」
「「生き延びられる?」
女の子みたいな服装をした少年、芙蓉格をはじめ、残虐非道のテロリスト達に追われていたクマ国の避難民達は、自分たちを守る全長一〇〇メートル、幅一〇メートルの巨大な剣に似た空飛ぶ船トツカをみあげて涙をこぼす。
「こ、こんな、単艦相手に〝兵士級人形〟ばかりか、〝騎士級人形〟まで全滅するだなんて……」
一方、桃太達と敵対する〝完全正義帝国〟の指揮官にして、〝人形使い〟の役名を担うリノーは、白髪の上にかぶった羊毛帽子と、鎖鎧の上に重ね着した皮のロングコートを煤で汚しながら下唇を噛み締めてた。
絶対優位を保っていたはずなのに、彼と部下が操る屍体人形は、詠の一撃でその大半が失われている。
里にまだストックがあるといえ、野球なら逆転満塁ホームラン、サッカーなら短時間のうちにハットトリックが決まったようなもの。士気への影響は目に見えて明らかだ。
「あとは指揮官をとるだけだ!」
桃太達は剣に似た戦闘艦トツカで、空飛ぶ偽天使〝兵士級人形〟と、戦車キメラ〝騎士級人形〟を全機撃墜。敵中枢にいる指揮官リノーに迫ろうとしていた。
「ひいいい。やってられねえ」
「狩りに来て狩られるだなんて割にあわねえ」
リノーを除く、鍔広の羊毛帽子をかぶり、骸骨のように白く角ばった軍服を着た〝完全正義帝国〟の士官らしき集団二〇名はもはや勝ち目がないと確信したのだろう。すぐさま逃亡をはかるも……。
「敵前逃亡は死罪ですよ」
「「ぎゃあああ」」
リノーは、両手で握る二対の棍棒から蛇糸を放ち、生きたまま食い殺させる。
「残念でした。〝兵士級人形〟も、〝騎士級人形も、どれだけ喪失しようとも、我が軍勢はいくらだって補充できるのです」
彼は出来立てほやほやの死体を使い、己を守るための新たな親衛隊、偽天使兵と戦車キメラを作り出した。その上、事前に仕込んでいたのだろう蛇の糸が絡まった糸球を足元から掘り返す。
︎「出雲桃太、そして冒険者パーティ〝W・A〟。異世界クマ国代表カムロと戦うまでは温存する予定でしたが、冥土の土産に披露しましょう。我ら、〝完全正義帝国〟の切り札〝陸竜人形〟を!」
あとがき
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