第670話 ニワトリ娘の咆哮
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「なるほど、今のシャボン盾を見て、柳さんの端末〝砂丘〟で作った補助翼が有効に機能して、桃太くんの勘もいつも以上に冴えている理由がよくわかりました。〝鬼の力〟に干渉できるこの船には、ブリッジ内部にいる乗員の鬼術を拡大する能力もあるのですね。ならば、〝夜叉の羽衣〟よ!」
焔学園二年一組の担任教師。矢上遥花は、包容力のある大きな胸をふわんと揺らしながらも、ブリッジの床へしっかりと立って、栗色の髪を飾る赤いリボン状の〝鬼神具〟に手を添える。
「遥花先生、リボンが外にっ」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、艦長席から身を乗り出し、空飛ぶ戦闘艦トツカを掠める砲弾の衝撃で落ちかけながらも、驚きの声をあげた。
遥花が操る赤い生地がするすると窓へ吸い込まれて、トツカの船体側面から巨大な生地がタスキのように伸びたではないか。
「さすがは矢上遥花。って、か、髪が座席に絡まって落ちる。助けておくれええ」
遥花は、昆布のように艶のない黒髪の少女に化けた元上司、伊吹賈南が悲鳴をあげながら席から転げる姿を横目で確認しつつ……、テロリスト団体〝完全正義帝国〟がクマ国人の遺体で作り上げた戦車型キメラを迎撃する。
巨大なリボンで砲弾を逸らし、銃弾を弾き、雷すらも鎧代わりになって受け止めた。
「「あばばばあっ」」
「BUNOO」
遥花の活躍で直撃は避けたものの、衝撃のすべてを逸らせたわけではない。艦内では急造りのシートベルトが衝撃に耐えきれず外れ、賈南だけでなく桃太を含む少なくない生徒が宙を舞う。
だが、命があるだけマシだろう。
「ご支援感謝します。予定地点には、あと六〇秒で到着します」
「コケーっ。みずち様も遥花先生もお見事でした。作戦通りに、ここからは〝鬼勇者〟の出番ですわ」
そんな混乱の中で、揺るぎもしなかった最後の人物は……。
意外なことに、赤い髪を二つのお団子髪でまとめた、ブリッジ中央にふよふよと浮かぶ小動物めいた少女、六辻詠だった。
「舞台登場 役名宣言――〝鬼勇者〟!」
詠が頭頂部に浮かぶ光輪を〝鬼面〟に変化させて被り、大きな胸をぶるんぶるん揺らしながら宣言するや――。
彼女の背中から真っ白な翼が生え、革の防具からはみ出そうな胸とお尻を守るように、七色に輝く一二枚の光輪が出現する。
「詠さん。この風の音を聴くに、〝騎士級人形〟……戦車キメラ部隊は〝鬼の力〟を貯めている。三〇秒後に攻撃してくれっ」
艦長席から放り出された桃太が逆立ちしてブリッジ床に着地しつつ、役名〝斥候〟の技術と、鋭敏化した耳で捉えた情報を伝えるや、詠は自信満々で微笑んだ。
「コケっ。執事さん、任せてください。勇者とは理不尽な脅威から民草を守るために、立ち上がるもの。空王鬼ジズの羽よ、力を貸して!」
桃太の援護を受けた詠は、自らを守る一二枚の光輪を、戦闘艦トツカの外に転移させる。
「遅い。何をしようとしているか知らないが、〝兵士級人形〟の再製造は終わった」
〝完全正義帝国〟の総指揮官である白髪の青年リノーが、自らの手で命を奪った死体を材料に空飛ぶ人形兵器一〇〇体を作ってぶつけてくるも。
「いいえ、遅かったのは貴女ですわ」
詠が操る光の輪は、あたかもフォークでプリンやゼリーでも切るかのように、空を汚す偽天使人形をスパスパと断ち割って全滅させ……。
「今こそ〝鬼術・光刃三千〟!」
更には光輪を数千にも及ぶ光刃に分裂させて解き放ち、戦車キメラ二〇体へと叩きつけ、爆散させた。
「「GAAA!?」」
「「わ、我々の切り札がっ。こんなバカなああ!?」」
あとがき
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