第669話 大人達の意地
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「出雲がついているんだ。数で負けても、技量で負けるつもりはぁ、ない!」
サイドポニーが目立つスポーティな少女、柳心紺の操艦する巨大な剣に似た戦闘艦トツカが、〝完全正義帝国〟と交戦しつつ、青空を切り裂いて飛ぶ姿は、地上で仰ぐものにとって見惚れるほどに綺麗だった。
「す、すげえな」
「あ、ああ。なんて美しい」
「あれが、乂さんが相棒と頼む出雲桃太さんと冒険者パーティ〝W・A〟!」
女性物の服を着た少年、芙蓉格ら避難民達の羨望とは裏腹に……。
「「ちょ、柳さん。スピードあげすぎ、酔うって」」
「「ほげえええ(サメー)」」
「「あんぜん、こんぷらいあんすうう」」
全長一〇〇メートル、幅一〇メートルを誇る空飛ぶ船のブリッジの中は、散々な有様だった。
艦長である額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太をはじめ、パーティメンバーの大半が船の回避運動についていけずシートベルトへしがみつき、絶叫マシンもかくやと悲鳴をあげていたからだ。
「大丈夫大丈夫。死ぬよりマシでしょ。まだまだ行くよーっ」
「心紺ちゃんの運転はここからが本番よ。敵集団の攻撃が広く、薄くなったわ。右一時方向へあと五キロメートル寄せれば、火力のある詠ちゃんが攻撃できる」
「BUNOO(お、おたすけ)」
とはいえ、少数ながら例外もいた。
船の操舵輪を握る柳心紺はもちろん、彼女の親友である白衣の少女、祖平遠亜は普段から八本足の虎に似た式鬼ブンオーに相乗りして慣れているのだろう。
瓶底メガネを光らせながら、〝完全正義帝国〟の情報を逐一伝えつつ、的確に船を前へ進めていた。
「「止められないのか。だったら、狙いをつけるだけ無駄だ。ひたすら弾幕をはれ」」
白い骸骨を連想させる軍服を着た〝完全正義帝国〟の一般指揮官たちは、トツカの接近に恐怖したのだろう。
戦車キメラ二〇体の砲撃範囲をひたすらに広げ、やけっぱちにデタラメな射撃をさせる方針に切り替えていた。
適当にばら撒かれた流れ弾は、クマ国の避難民達をも巻き込もうとするが……。
「このハチャメチャな戦闘っ。おでんやアテルイと戦っていた頃を思い出すわね。若返りそう!」
火龍アテルイから戦闘艦トツカを管財人として預かっていた、水色の髪に水兵帽をかぶった付喪神佐倉みずちが危険性にいち早く気づいて前に出る。
彼女は昔とった杵柄か、荒れる運転をものともせずにブリッジ中央に立ち、己が術で迎撃した。
「オオバカリ、相殺の鬼術を使います。協力して」
「了解です」
みずちが何百個ものシャボン玉状の盾を作り上げるや、戦闘艦トツカのブリッジ床に一度吸い込まれ、甲板から巨大化して再出現し戦場後方へばら撒かれ、火や氷をまとう流れ弾を受け止めて散る。
「こ、この透明な泡は我々を守ってくれている?」
避難民を先導する女物の着物を着た少年、芙蓉格が気づいたように、みずちの術は交戦がもたらす流れ弾から民間人を守るためのものだった。
「なるほど、今のシャボン盾を見て、柳さんの端末〝砂丘〟で作った補助翼な有効に機能して、桃太くんの勘もいつも以上に冴えている理由がよくわかりました。〝鬼の力〟に干渉できるこの船には、ブリッジ内部にいる乗員の鬼術を拡大する能力もあるのですね。ならば、〝夜叉の羽衣よ!」
あとがき
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