第668話 冒険者パーティWAの反撃
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額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太たち、冒険者パーティ〝W・A〟が乗る、空飛ぶ戦闘艦トツカは異世界クマ国で虐殺を引き起こした、元地球人のテロリスト団体〝完全正義帝国〟を撹乱。
「「ジャックポット! 狙い通り!」」
サイドポニーが目立つスポーティな少女、柳心紺は流れるような操艦で、〝完全正義帝国〟一般指揮官が操る戦車キメラ二〇体の砲撃を誘導し、敵総指揮官リノーが糸を引く偽天使人形二〇〇体を撃墜させるという、同士討ち作戦に成功した。
「やられたっ。最初から、〝騎士級人形〟の砲撃で、〝兵士級人形〟を空から落とすつもりだったのか」
十字型の棍棒から伸びる蛇糸で戦闘人形を操っていた〝完全正義帝国〟の総指揮官、白髪の優男リノーは、バラバラと焼け落ちる加工された遺体の残骸を呆然と見つめた。
多少の損耗なら即時修復できるのが屍体人形の強みだが、こうまで破壊されては新たに創り出すしかないだろう。
「「やったああ!」」
その一方、異世界クマ国の避難民達は、自分たちを戦闘人形の材料にしようと追いかけてきた〝完全正義帝国〟の進軍が止まったのを見て、歓声をあげる。
「くそおっ、出雲桃太めっ。どんなに強力でも所詮は単艦だ。こちらにはまだ二〇体の〝騎士級人形〟がある。私が戦力を再編する間の時間稼ぎぐらいやってみせろ!」
「「ギャハハ、死ね死ね死ね」」
「「お前らが死なないと俺たちが長老達に消されるだろうがっ」」
リノーが二対の棍棒から伸びる蛇糸を操り、虐殺され積み上げられた遺体から新たな屍体人形を製作する間……。
骸骨めいた軍服を身にまとう一般指揮官達は、先ほどの失態を挽回しようと、意地になって砲撃を繰り返す。
〝騎士級人形〟と呼ばれる戦車キメラの、獅子に似た顔からは炎をまとう砲弾が赤い軌跡をおびて青空を裂き、蛇を模した尻尾からは白い銃弾が吹雪のように撃ち放たれ、たてがみからは黄色い雷が所狭しと発された。
「柳さん、濁った風の音が聞こえる。三秒後に下から戦車キメラの総攻撃がくる」
「出雲、ありがとっ」
しかし、桃太の忠告を聞いた心紺が操舵輪をぶん回すや、戦闘艦トツカは垂直に急上昇して砲撃を振り切った。
「遠くから魚雷を撃っても当たらないならあ、近くまで行ってぶっ飛ばす!」
さらに反転急降下して雷を避けながら、戦車キメラの側面へと流れつつ距離を詰めることに成功する。
「「なぜだ、なぜ当たらん!?」」
〝完全正義帝国〟の二〇人いる一般指揮官達は知らない。
空飛ぶ戦闘艦トツカの艦長席に座る桃太は、船を動かすリーダーとしての経験は無いに等しい。
しかし八岐大蛇や、その眷属と戦ってきた経験は、師匠である異世界クマ国代表カムロに継ぐだろう。
そんな彼の担う役名は、状況把握に長けた〝斥候〟だ。
「柳さん、五秒後に左一〇時方向から火の砲弾、八秒後に右二時方向から氷の銃弾、一〇秒後に正面から雷がくる」
「さすがだね。わかっていればあっ」
桃太がトツカの船体に当たる空気の振動から敵攻撃を予測するや、心紺が操舵輪を回しながら小刻みに船を動かして、弾幕を潜り抜ける。
そもそも空中戦力である偽天使人形〝兵士級人形〟の援護なしにそうそう当たるものではなく、戦車キメラ〝騎士級人形〟が獅子に似た口や蛇を模した尾から吐き出す火の砲弾や氷の銃弾、たてがみから発する雷のエネルギー波は明後日の方向へ飛んでいき、空へ吸い込まれていった。
「出雲がついているんだ。数で負けても、技量で負けるつもりはぁ、ない!」
あとがき
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