第667話 心紺と遠亜の秘策
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「異世界クマ国の民間人を守りつつ、〝完全正義帝国〟の戦闘人形軍団を倒す打開策ならあるよ、ね、遠亜っち」
「心紺ちゃんと二人で考えたんだ。出雲君、矢上先生、話を聞いてくれる?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、死体を人形に変えて操る〝完全正義帝国〟の軍勢に押し負けていたものの……。
ここで解決策をもたらしたのが、彼が率いる冒険者パーティ〝W・A〟の参謀格である、サイドポニーの目立つ式鬼使いの少女、柳心紺と、瓶底メガネをかけた白衣の少女、祖平遠亜だった。
彼女達は、これまで八本足の虎に似た式鬼式鬼ブンオーに二人乗りして、空中戦も経験していた。
「二〇キロ先にいる敵総指揮官のリノーを叩くには、彼が操る五〇〇メートル先いる飛行タイプの〝兵士級人形〟と、彼の部下ざ動かす一〇キロメートル先に配置された砲撃戦用キメラ〝戦車級人形〟が邪魔なんでしょう」
「でも、空と陸は完全な連携が取れているわけじゃない。私たちはそこをつく。具体的な作戦はこうこうで……」
「わかった。これならやれそうだ」
かくして、桃太達による乾坤一擲の作戦が始まった。
「じゃあ、心紺ちゃん、操艦をお願い!」
「任せて。遠亜っち。出雲、船を借りるわよ。舞台登場 役名宣言――〝砂丘騎士〟!」
心紺がブリッジ前方に走りより、操舵輪を掴みながら、堂々と己が役名を宣言する。
学校指定のジャージが濃紺の戦闘服へと変化。しかしながら、本来ならば彼女に装着されるはずの鎧と、砂状の遠隔兵装端末が戦闘艦トツカに取り付いて、小さい補助翼を形づくった。
「全員伏せて。先生と遠亜っちはブリッジと廊下にいる全員をシートベルト代わりに縛り上げて」
「出雲君、紗雨ちゃん、みずちさん、詠ちゃん、それに葉桜さんは出番があるから、気絶しないでよ」
「了解。……なっ、あばああ」
心紺が操舵輪をぶん回すや、急激な方向転換をフォローして、作られたばかりの補助翼が軋みをあげる。
「これ、船ええ」
「漫画に書かれた豆腐店の車でも、レースゲームのゴーカートでもないんだけどーっ」
「BUNOO(これが通常運転だ震えろ)」
クラスメイトといつも振り回されているブンオーが泣くように吠える中……。
「なんだ、なにかの策か。迂回しつつ横腹を狙うか?」
「「ギャハハ、〝騎士級人形〟よ、呪いの毒ガス弾をぶちまけろ。点でダメなら、面で制圧してくれるわっ」」
「〝完全正義帝国〟っ。弾幕が薄いわよっ」
心紺が戦闘艦トツカは慣性ドリフト走行めいた飛行を繰り返しながら、空飛ぶ偽天使人形と、戦車キメラが空陸から放つ攻撃を回避して、前進を続けた。
「よし、風の音が〝並んだ〟。柳さん、今だっ」
「出雲君のお墨付きだ。心紺ちゃん、やって」
「えーい、こんのおおおっ!」
桃太が空飛ぶ戦艦の装甲越しに敵味方の位置を把握して、遠亜が檄を飛ばす中、心紺は操舵輪を再び大きく回す。
事前の作戦通り、〝完全正義帝国〟の一般指揮官が動かす騎士級人形、リノーが操る兵士級人形、桃太達の乗る戦闘艦トツカが一直線に並ぶ瞬間がやってきたからだ。
「「いまいましい船めっ、誰の弾幕が薄いだ。ありったけをぶちかませっ」」
憤激した一般指揮官は、やけになって戦車キメラに過剰な砲撃を強いたため……。
「え、まさかっ!?」
「「GAAA!!」」
リノーが操作する偽天使人形の軍団は、トツカに誘導されて友軍の射線を塞ぐかたちになり、背後から撃ち抜かれて火花となって散った。
「「こ、こんな、バカなっ!?」」
そう、心紺と遠亜が狙ったのは、連携が取れていない敵の同士討ちだ。
「「ジャックポット! 狙い通り!」」
あとがき
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