第665話 完全正義帝国の猛攻
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「「なんじゃありゃああ」」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、冒険者パーティ〝W・A〟の仲間達は、空飛ぶ剣型の船、戦闘艦トツカのブリッジに映し出された遠視鏡の光景を見て、腰を抜かしかけた。
元地球人のテロリスト団体〝完全正義帝国〟の将校である、白髪の優男リノーは、十字型の棍棒から無数のヘビ糸を伸ばして死体をあやつり、二〇体もの戦車キメラをつくりあげてしまったからだ。
「皆さん、〝騎士級人形〟の操作は任せます。獣に寄り添う愚者を躾けておやりなさい」
「「ギャハハ、お任せあれ」」
リノーが棍棒を動かすと、彼が〝騎士級人形〟と呼ぶ戦車キメラが動き出し、彼の部下らしき二〇人の軍服を着た一般指揮官たちに一体ずつ頭を垂れた。
「「偽りの地球人め、真なる地球人、〝完全正義帝国〟の力を見せてやる」」
獅子に似た顔と山羊に似た胴体、蛇の尾を持つキメラは、膨大な死体を塗り固めただけあってか、移動速度には欠けているようだが……。
「マスター、捕捉されました。砲塔より攻撃、来ます!」
〝騎士級人形〟には、地球の戦車や高射砲にも負けない射程距離があるようだ。
一〇キロメートル以上離れた丘の上にいるにも関わらず、獅子に似た頭から炎に包まれた砲弾を発射し、蛇を模した尾からは氷をまとった銃弾を機関砲のようにぶちまけて、トツカの船体下部へと外れることなく命中させた。
「これで終わりだと思わないでくださいね」
更にリノーが操る〝兵士級人形〟と呼ばれる偽天使人形五〇体が、上空を旋回しながら陶器に似た自らのパーツを削って、蛇が巻きついた巨大な投げ槍に変化させ、投擲してきたからたまらない。
「皆様、上下一斉攻撃のようです。振動に注意してください」
「「うわあああっ」」
焔学園二年一組の生徒達は、オオバカリの忠告を受けてシートベルトや手すりにつかまるものの、激しい揺れには抗えず手足を床や壁に打ちつけた。
「当艦甲板と下部の装甲に異常発生。投げ槍と砲弾には腐食ガスを発生させる呪詛が込められています」
更には、敵人形が放つ特殊攻撃を受けたことで、全長一〇〇メートル幅一〇メートルの船体を守る装甲板の各所にもダメージが生じたようだ。
「オオバカリ、わたしの力で毒ガスを洗い流して修復するわ。初陣でとんでもない相手とぶつかったわね」
「みずち様、お願いします。マスター、当艦のエンジンは〝鬼の力〟を浄化して動く特別製です。多少の呪いならば、ご馳走としていただきます」
幸いにも、船には水を操る付喪神、佐倉みずちが同席していたことで、船全体を水で覆って、クリーニング。
残った呪いもオオバカリの手腕と、戦闘艦トツカの機能を生かして燃料にすることができたものの、敵が地対空、空対空攻撃の手段を見せつけてきた以上、予断を許さない。
「くそ、こうなったら俺が直接降りて〝螺子回転刃〟で叩き切ってやる」
「出雲様、おやめください。距離が遠すぎて近づく前に討たれてしまいます。そもそもあの大技は、荒れる〝鬼の力〟や大気の乱れを利用して放つもの。今の状況では使えないでしょう」
桃太は再び飛び出そうとするも、一度は刃を交えた鴉天狗の少女、葉桜千隼に阻まれた。
「まったく出雲桃太め、我らが総大将だというのに学習しない。いや、この場合、八岐大蛇・第六の首、ドラゴンリベレーターがエグいというべきか」
本来であれば八岐大蛇・第一の首である少女、伊吹賈南の言葉に、クマ国代表カムロの娘、建速紗雨は頷いた。
「賈南ちゃんの言う通りサメエ。無理矢理操るところは、テロリストに堕ちた勇者パーティ〝S・E・I〟の親玉だった四鳴啓介に、変身させるのは、〝K・A・N〟の七罪業夢に似ているけど、より悪どく洗練されているんだサメエ」
あとがき
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