第663話 〝完全正義帝国〟が擁する秘密戦力の正体
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「マスター、このまま残敵を掃討しますが、注意してください。敵軍後方に動きあり。敵将らしき人物が増援を――〝作っています〟!」
全長一〇〇メートル、幅一〇メートルの空飛ぶ空飛ぶ戦闘艦トツカ。その頭脳たる付喪神オオバカリが焼き討ちされた村の映像を立体映像でブリッジ中央に映し出し、警告を発する。
「オオバカリさん、増援を作るってどういう意味? なんだ、あの指揮官みたいなやつ。死体に蛇を潜り込ませている?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は艦長席で思わず腰を浮かした。
約二〇キロ先にある常葉山の麓にある村の焼け跡では、元地球人のテロリスト団体〝完全正義帝国〟の将校が、積み上げられた死体の山で奇妙な行動をとっていた。
「そういえば、ガイとリンちゃんが撮った動画の中で、〝完全正義帝国〟の兵士達が『あいつらを殺して〝蛇の糸〟を使えば、ここからだって立て直せる』と言っていたサメ!」
サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨は桃太の腕にしがみつき、真っ青な顔で悲鳴をあげた。
くだんの将校が、殺害した異世界クマ国の住人に手をかけてくしゃぐしゃといじりはじめたからだ。
「蛇の糸! その正体は、死体を動かす、いえ操り人形に変化させる術だったのですか?」
冒険者育成学校、焔学園二年一組の担当教諭、矢上遥花の見たては正しかった。
羊毛で作られた毛皮帽をかぶり、チェインメイルの上にロングコートを身につけた白髪の優男は、十字型の棍棒から無数のヘビ糸を伸ばして死体に取り憑かせ、都合のいい兵器へと作り替えていたのだ。
「蛇が死体の中で増えて、肉と骨を陶器のようなパーツに変化させている? 我々の尊厳をどこまで踏みにじるつもりか!」
前髪の長い中性的な鴉天狗、葉桜千隼は、自分たちの同胞が偽天使人形へと改造されていることに我を失い――。
「おいおい、正気かよ?」
「遺体を武器に使うなんてめちゃくちゃだ」
「しかも、際限なく増えてゆくじゃないか」
モヒカンが雄々しい男子生徒、林魚旋斧をはじめ、桃太のクラスメイトである冒険者パーティ〝W・A〟一同も戦慄する。
死体から作り出した偽天使人形は総数およそ二〇〇体。先ほどの戦闘で撃破した一〇〇体の更に倍だ。
「ねえ、遠亜っち。〝完全正義帝国〟は、〝前進同盟〟から分派した過激派だから兵隊の数は少ないとばかり思っていたけれど」
サイドポニーの目立つスポーティな式鬼使いの少女、柳心紺が顔をひきつらせ――。
「心紺ちゃん、まずいよ。死体を兵士として補充できるのなら、話はまるで変わってしまう」
いかにも文学系な瓶底メガネをかけた白衣の少女、祖平遠亜も額から冷たい汗を流した。
軍勢を動かすというのは簡単なことではない。武器だけでなく生活用品も含めた大量の物資が必要となる。
ましてや万を超える大軍となれば、必要となる食料も水も膨大なものとなり、トイレだって数を用意できなければ悪臭漂う不衛生な惨状となるだろう。
だが、死体を肉や骨を陶器状のパーツに変化させて操り人形にするなら、補給問題の大半が解決されるのだ。
これこそ、まさに異世界クマ国代表カムロや、前進同盟の統率者オウモが読み間違えた秘密戦力の正体だった。
「乂が動画で言っていた、〝完全正義帝国〟《スプラヴェドリーヴォスチ》が持つ〝わけのわからん戦力〟って、この屍体人形達のことか!」
あとがき
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