第65話 〝鬼勇者〟三縞凛音との決闘
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出雲桃太は、遂に〝C・H・O〟の副代表、鷹舟俊忠を倒し、〝鬼神具〟たる機械仕掛けの義腕〝茨木童子の腕〟を破壊した。
流石に力を使いすぎたのか、乂の短剣から発する黄金の光は小さくなってしまったが、風を操ることに支障はないようだ。
「よし、乂。紗雨ちゃんを助けに行くよ」
「おうよ、相棒!」
桃太も凛音も仲間を救おうと駆けだして……。
「紗雨ちゃん、無事で良かった!」
「サメエ、もう少しで干物になるところだったサメエ……」
「鷹舟も、まだ息があるようね。出雲君に感謝なさい」
一同は、広間の中央にある獣の内臓じみて蠢動する岩山、〝千曳の岩〟で鉢合わせした。
「まさか本当に鷹舟を倒すだなんてね。出雲君を引き入れなかったのが、ワタシの過ちね」
「三縞代表! 俺たちの声が聞こえていなかったのか、貴方は鷹舟さんに騙されていたんだ。もう戦うのはやめてくれ」
桃太は必死で説得を試みるも――。
「いいえ、ダメよ。ワタシは世界を変えたいの」
「世界を変えたいなら、他にも手段はある。皆で手を取り合えば、必ず変えられる」
――凛音は、受け入れようとしなかった。
「皆じゃ、駄目なのよ。ワタシ達は、今のままの世界を変えたいわけじゃないから。〝鬼の力〟を葬るためには、一人が全ての権力を握らなきゃいけないの」
「その為に、どれだけの犠牲を積み重ねるつもりなんだよ!」
桃太はクマ国で大型ディスプレイで見た、燃える東京の映像を思い出して、必死に食い下がる。
「そう、犠牲よ。ワタシはワタシが信じる正義の為に、呉陸喜君を、追放した団員を、罪もない民間人を殺した。大好きだった瑠衣お姉さんや、幼馴染の乂も犠牲にしていたのよ。始まりは鷹舟に唆されたのだとしても、今さら止めるわけにはいかないの」
「……っ」
奥歯を噛み締める桃太に対し、凛音は微笑んだ。
「出雲君。貴方の親友を殺した仇はここにいる。ワタシを、討ちなさい」
「……桃太おにーさん、戦ってあげるサメエ」
(相棒、サメ子の言う通りだ。組織のアタマは、アタマだからこそ変えられないことがある)
桃太は左手で乂の短剣を構え、右の拳を凛音に向けた。
「わかった。三縞代表、貴方を倒す。紗雨ちゃんは手を出さないで」
「むふー、涼んでいるサメエ……」
そして、凛音もまたガラスめいた人工瞳の前に、炎の塊を灯して戦意に応じた。
「お優しいこと。でも、勝つのはワタシよ、出雲君。命ある限り、クーデターを、革命を遂行するわ」
二人は互いに宣戦を布告するや、桃太は後ろへ、凛音は前へ弾けるように動き出した。
「ワタシが契約した〝鬼神具〟の名前は〝ホルスの目〟。右の瞳は太陽となりて、敵対者を焼き滅ぼす」
凛音の瞳から、赤い熱線が放たれる。
彼女の場合、鷹舟のように技を放つのではない。
一切の予備動作抜きで、見た瞬間に光線が発射されるのだ。
(まずいぞ、相棒。熱線だけなら避けられるが、凛音の目的は炎でオレ達の動きを制限することだ)
桃太が先ほどまで立っていた場所は火の海と化し、もはや近づくことすら叶わない。紗雨が変じた空飛ぶサメは、尾びれをバタバタ振りながら慌てて逃亡した。
「さすがは〝鬼勇者〟三縞代表は、強い!」
桃太もとっさに石柱に隠れたものの、隠れ場所はロウが溶けるように倒れ、黒装束の二の腕部分が焼けて消えた。
高々と跳躍して距離を取るも、また一区画、動ける場所が火に制圧される。
「左の瞳は、月となりて万象を見通す。出雲君、隠れても無駄よ。貴方の行動の全てを計算し、未来さえも予測してみせるわ」
あとがき
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