第662話 大蛇を薙ぐための船
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「さすがトツカだ。なんともない!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、彼の率いる冒険者パーティ〝W・A〟のメンバーは、異世界クマ国で虐殺を引き起こした元地球人のテロリスト団体〝完全正義帝国〟から避難民を守るべく、全長一〇〇メートル、幅一〇メートルの空飛ぶ剣のような船、戦闘艦トツカで割ってはいった。
「「あの空飛ぶ船、我々を守ってくれるのか」」
「「乂さんの言っていた救援が来たんだ!」」
焼け出されポロポロの衣服をきたクマ国の避難民達が、ようやく安堵したのか喜びの涙を流す。
「「避難民も無事だ。凄いぞこの船」」
「「出雲、よく得られたなあ」」
一方、船のブリッジや廊下に集う、焔学園二年一組の生徒達も空飛ぶ戦闘艦トツカの性能に感嘆の声を上げていた。
火と破壊の嵐が包み込んだものの、ぶあつい装甲で守られた船は揺るぎもしない。
「皆様、まだ戦闘中です。遠視鏡、敵集団に寄せます」
戦闘艦トツカを運用する付喪神オオバカリがブリッジに投影した立体映像をみるに、敵戦力でもっとも多いのは陶器のようにツルッとしたパーツが組み合わさって動く、天使に似た人型の怪物達だ。
「頭の上に、詠ちゃんの鬼神具〝空王鬼ジズの羽〟に似た光の輪があって、翼が生えているね。ひょっとして知っていたりする?」
「いいえ、執事さ、桃太さん。あの悪趣味な怪物達が持つ力は、わたくしの知る六辻家や勇者パーティ〝SAINTS〟のものとは別物ですわ。天使というよりは、むしろ操り糸で動く人形のように見えます」
「マスター、もう少し拡大します」
立体映像が更に詳細になり、頭部をよくよく見れば毒毒しい色の蛇がより合わさり、操り糸のように陶器に似た肉体のパーツを侵食しつつ、身勝手に動かしている。
翼のように見えたのは、いずこからかのびた操り糸が羽のように広がっているからだ。
「詠ちゃんのいう通りだった」
「そうね、出雲。全体的なシルエットは似ていてもアレは天使じゃない。もっとおぞましい何かだよ」
「相手が兵器ならば、遠慮は無用か!」
「マスター、応戦を開始します。タチウオ型空中魚雷装填、発射!」
桃太の命令を受けたオオバカリは、艦首に備え付けられた魚雷発射管から、二メートル近い長さの飛翔体を射出した。
「「GAA!」」
二発の魚雷は偽天使人形に命中後、激しい閃光を放ち、それぞれ爆心地の中心から周囲およそ一〇メートルを飲み込んだ。
そうして、五〇体を超える敵主力モンスターを一瞬にして、消滅させたのだ。
「GAGAA!」
蛇と肉がからみあう偽天使人形の残存戦力は、すぐさま散開。
一度雲の中に隠れた後、戦闘艦トツカに向かって急襲してきた。
「上空より、更に五〇体接近。対空砲火開始」
オオバカリが操るトツカの船体側面に穴が開き、迫り出してきた杖から火や氷の弾丸を撃ち出して撃墜する。
「なあ出雲、この船はカッコいいけど、兵装が強力すぎるんじゃないか? この調子じゃあ、残骸から情報を得ること難しいし、モンスターから素材を剥ぎ取ることもできやしない」
「そうだね林魚、この船は八岐大蛇と戦う為に作られたものだ。ひょっとしたら、冒険者にとっては過ぎたものなのかも知れない」
モヒカンが雄々しいクラスメイト、林魚旋斧の感想に、桃太も額に皺をよせて頷いた。
しかし、それは初めての体験を前にした、根拠のない楽観、あるいは油断だったのだろう。
「出雲桃太。妾も其方が根っからの冒険者であることは承知しているがな。今いる舞台は探索狩猟でも悪漢退治でもなく、〝戦場〟じゃぞ?」
「賈南さん、それはっ」
昆布のごとく艶のない黒髪が目立つ少女、伊吹賈南が忠告した直後、桃太は〝完全正義帝国〟の悪辣さをまざまざと思い知ることになる。
「マスター、このまま残敵を掃討しますが、注意してください。敵軍後方に動きあり。敵将らしき人物が増援を――〝作っています〟!」
あとがき
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