第661話 接敵
661
西暦二〇X二年九月三日。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、空飛ぶ戦闘艦トツカのブリッジに投影された、異世界クマ国コウナン地方、常葉山付近の立体映像を見て、艦長席から飛び上がった。
「やつら、なんて真似をしやがる」
事前に録画映像で見たテロリスト団体〝完全正義帝国〟の兵士達と同じように、鍔広の羊毛帽子をかぶり、骸骨のように白く角ばった軍服を着た、士官らしき人物が数人と……。
彼らが使役する、あたかも西欧の天使のように背中から羽の生えた空飛ぶ異形の怪物たちが、里の焼き討ちから逃れたのだろう、クマ国の一般民衆を追いかけている。
そして彼らの後方には――。
「ひでえ」
「これが〝完全正義帝国〟……」
冒険者パーティ〝W・A〟のメンバーが息をのむ。
逃亡を続ける避難民の背後、およそ二〇キロ先にある村では、常葉山一帯に面した村が燃やされ、広場には血まみれの惨殺死体が、あたかも人工の丘のようにうずたかく積まれていた。
子供も女性も老人も容赦なくくびり殺し、己が成果を飾るような所業に、桃太の血が沸騰した。
「遥花先生、指揮をお願いします。みんな、ここは任せた。相棒が、五馬乂がいるかも知れないから、助けにいってきます」
「桃太おにーさん、待つサメエ」
「うわっ」
桃太は取るものもとりあえずブリッジを飛び出そうとするが、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨に体当たりされて転倒。
「桃太君。いけません!」
栗色の髪を赤いリボンで結び、フリル付きのワンピースを着てタイトスカートを履いた担当教諭の矢上遥花が袖から伸ばしたリボン状の生地で、がんじがらめに縛り上げられてしまう。
「出雲は私達のリーダーなんだから、軽々に動くのはよくない。ブンオー、やっちゃって」
「BUNOO!」
「そもそも相手も飛べるのに、空飛ぶ船から降りてどうしようというのか」
その上、サイドポニーの目立つ少女、柳心紺がけしかける八本足の虎に似た式鬼ブンオーに踏みつけられ、瓶底メガネをかけた白衣の少女、祖平遠亜に腕をがっちりと掴まれた。
「た、たとえ空飛ぶ敵が相手でも戦う方法はあるし」
桃太はクマ国で内戦が起きたことに動揺し、乂の安否も確認できないことで焦っていた。
彼は紗雨達の拘束から逃れようとするも、一対四ではさすがに抜け出せられない。
「出雲君。このまま戦艦トツカを前面に出すべきじゃないかしら?」
「そうです。その方が情報も得られるし、乂様が助けた避難民達への支援にもなるでしょう」
そこへ、トツカの管理人であった水兵服を着た付喪神、佐倉みずちと、桃太一行のお目付け役である鴉天狗、葉桜千隼が口添えする。
「わかった。オオバカリさん、避難民を助けに行こう」
「了解です。マスター、前進します」
戦闘艦トツカがエンジン音を高らかに鳴らして、プロペラを全力で回して大空を進む。
「「GA!?」」
空を飛ぶ巨大な船は囮として効果絶大だったのだろう。〝完全正義帝国〟の怪物達が視線を向けた。
「捕捉されました。攻撃、来ます!」
一〇〇体の天使に似た怪生物達は編隊を組み上げ、激しい空中戦を展開した。
「「GAA!」」
口から火球を吐いて草原を焼き払い、手足を刃に変えて森の木々を切り裂き、翼をもぎとって槍のように投げつけ街道の建物を串刺しにする。
「「も、もうだめだああ」」
地上の避難民達が死を覚悟して、悲鳴をあげるも……。
「マスター、当艦を盾にします」
「オオバカリさん、頼む!」
桃太の許可を受け、オオバカリが操る戦闘艦トツカが攻撃を受け止める。
火球や投げ槍が甲板に直撃して、メラメラと燃える炎の花を咲かせたが、厚い装甲に守られて船は揺るがない。
「さすがトツカだ。なんともない!」
あとがき
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