第658話 トツカの内部と問題噴出
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「こ、これが艦長席。乂やリッ……黒騎士に今度会ったらめいいっぱい自慢してやろう」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、空飛ぶ戦闘艦トツカの艦長席に座ってホクホクの笑顔を浮かべ……。
「サメエ。この舵輪で船の後ろにあるプロレラを動かすんだサメエ。なんだかワクワクするサメエ」
紗雨もブリッジ真ん中に置かれた舵輪に飛びついて、ヒレめいた裾や尻尾かざりをフリフリしながら、満面の笑みを浮かべている。
「ここが機関室か。見てみるぜ」
「へえ、こいつが砲台室の入り口か。かっこいいなあ」
「調理室もあるのね」
「医務室にはどんな薬があるのかな」
「へえ、放送室まであるのか。とても原型が二千年前に作られたとは思えない」
冒険者パーティ〝W・A〟の仲間達も興味津々と散らばって、船の各地で喜びの声をあげていた。
しかし見回るに連れて、彼らの表情は困惑にとって変わられることになる。
「なあ、出雲。この船、機関室がえらいことになっているぞ」
「えっ」
桃太が〝壊れない〟ことを確認するように、ブリッジのあちらこちらをペタペタ触りながら、胸を高鳴らせていたところ……。
重装の〝戦士〟隊を束ねる、モヒカンが雄々しい大柄なクラスメイト、林魚旋斧が青い顔で囁いてきた。
「エンジンらしき物体が、見たこともない水晶みたいな鉱物で覆われていて、使い方が想像もつかなかった。これって、まずいんじゃないか」
「ま、マニュアルとかないのかな?」
「無かった」
「まずい。ひょっとして他も……」
桃太と林魚が揃って眉間にシワを寄せた時、ままた新たな客が軽快な足運びで飛び込んできた。
軽装の〝戦士〟や、〝斥候〟で構成された遊撃隊を率いる、野生味溢れる小柄な少年、関中利雄である。
「出雲サン。〝完全正義帝国〟との交戦に備えて船の砲台を見てきましたが、杖みたいなヘンテコなデザインでどう使えばいいのやら……って、あ!」
関中は艦長席付近で向かいあったまま立ち尽くす桃太と林魚を見て、状況を察したらしい。
「出雲っ。倉庫を確認したら、タコみたいな格好の小型ゴーレムにまとわりつかれて入れなかったぞ」
続いてやってきた鬼術師隊のリーダーである、長い髪を七三に分けた少年、羅生正之は空気も読まずに騒ぎたて……。
彼の大声を皮切りに、ブリッジは蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。
「調理室は竈があるんだけど、船の中で火を炊いてもいいのかな? 薪や油を入れる場所が見当たらないんだ」
「BUNOO!」
「「え、ご飯食べられないの?」」
サイドポニーの目立つ少女、柳心紺が、八本足の虎に似た式鬼ブンオーと共に飛び込んできたことで食料不安が明らかになり……。
「医務室の薬品棚が草と種だらけだった。治癒薬を作ろうと試みたけど、今まで見たことのない素材なんだ」
「「それってまずいのでは?」」
柳の親友である瓶底メガネをかけた白衣の少女、祖平遠亜も植物を手に駆け込んできて、医療方面の不安までが生まれてしまった。
「執事さ……出雲さん。放送室に、地球産の古いCDラジカセがありましたわーっ。CDって誰か持っていますか?」
赤い髪を二つのお団子状にまとめたグラマラスな少女、六辻詠だけは能天気だったが、救いにはならない。
「み、みんなちょっと待ってほしい」
桃太は内心、焦っていた。
彼らが乗り込んだ戦闘艦トツカは、オウモら〝前進同盟〟が地球に売り込むために作った商品と異なり、純粋な異世界クマ国産の船だ。
当然ながら地球人ではなく、クマ国出身の人員が動かすことを想定しているのだろう。
「さ、紗雨ちゃんは戦闘艦トツカの動かし方って知ってる?」
あとがき
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