第657話 桃太、空飛ぶ戦闘艦に乗る
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「桃太君、昨日渡したカギは通信……通〝神〟機能がついておる。みずちのいる水中デッキに繋がっているから、呼びかけて欲しい」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、おでんの勧めに従い、カギに向かって呼びかけてみる。
「もしもしみずちさん。戦闘艦トツカは動かせますか?」
「ええ。譲ると決まったのが昨日だから、積み込めた武装は最低限だけど、進水の準備は万全よ。さっそく陸に向かうわね」
おでんの盟友である、水兵帽をかぶった付喪神、佐倉みずちがそう答えるや否や、浮上作業に入ったようだ。
「「沖の方から音が聞こえるぞ!」」
桃太達が集まった宿の窓から見える、ウメダの里の海岸の先、無人島近海の海から轟音が響いた。
遊戯用地下迷宮〝U・S・J〟の空間制御能力を使っているのか、海が左右真っ二つに分かれる。
大滝のような瀑布に包まれながら、全長およそ一〇〇メートル、幅一〇メートルの、尾に巨大なプロペラを備えた流線形の船が姿を現した。
「「うおおおっ。遂にアテルイ様の遺産が動く日が来たのか!」」
「「地球の勇者、出雲桃太様万歳! クマ国の希望、紗雨姫に栄光あれ」」
桃太達が逗留していたウメダの里の住人達がこぞって歓声をあげる中……。
異世界クマ国代表のカムロから派遣された、前髪の長い鴉天狗の少女、葉桜千隼は、空飛ぶ戦艦トツカを見て、背中から生えた黒い翼をしおれされながら、へなへなと腰を抜かした。
「おでん様。伝説のアテルイ様の遺産って、実在していたんですか!?」
「そうじゃ。桃太君は〝U・S・J〟を地下三〇階まで踏破して、わしとの勝負に勝ったからな。アテルイの願いを叶えるため、彼に託すことにした」
「おでん様って、毎年カムロ様と戦っていて、互角の強さですよね。なんでえええっ!?」
千隼が唖然とする姿を見て、おでんはカラカラと笑った。
「戦闘艦トツカならば、万に一つもテロリスト団体〝完全正義帝国〟と誤認される心配はなかろう。避難民救出に使われるのだから、亡きアテルイも喜ぶに違いない。さあ、乂達が待っておる。桃太君と冒険者パーティ〝W・A〟の弟妹達よ。幸運を祈っておるぞ!」
「良さげな酒があったらお土産に買ってきてくれ」
「桃太お兄様、おかえりをお待ちしています」
「「はい!」」
西暦二〇X二年九月一日。
桃太達は、おでんと、連絡担当の呉栄彦、呉陸羽が見送る中、昇降用タラップを昇り、空飛ぶ戦闘艦トツカへ乗り込んで、相棒である五馬乂と、クマ国避難民の救出に向かうことになった。気になる船内部だが……。
「「おお、けっこう広い!?」」
桃太達が事前におでんから聞かされた話では、乗船可能な最大人数はおよそ三五〇名。
冒険者パーティ〝W・A〟のメンバー五〇人あまりが全員乗っても、三〇〇人の余裕があった。加えて……。
『カカカ。桃太君は八岐大蛇が忌避する〝巫の力〟を宿すが故に、〝鬼の力〟を利用する蒸気鎧を着たり、蒸気バイクに乗ったりすると壊れるとカムロから聞いておる。じゃが、戦闘艦トツカは鬼を嫌うアテルイが独自の製造法で建造したから、その心配は無用じゃ』
桃太が乗っても壊れない、という、誠にありがたいお墨付きをもらっている。
「こ、これが艦長席。乂やリッ……黒騎士に今度会ったらめいいっぱい自慢してやろう」
あとがき
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