第655話 葉桜千隼の説得なるか?
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「わしは元々、ウメダの里からも救出部隊を派遣するつもりじゃった。ゆえに、この地を治める顔役として、クマ国の法に基づき、桃太くんたち冒険者パーティ〝W・A〟へ、乂君の指定したコウナン地方北部、常葉山にて避難民救出を依頼しようと思う」
異世界クマ国ウメダの里を治める指導者、鴉の濡れ羽がごとき黒髪が美しい、赤いサマードレスを着た麗女、田楽おでんの提案は、長きにわたり里の運営に携わっただけのことはあり、絶妙な落とし所だった。
「おでんさん、ありがとうございます。ご依頼、承りました」
「桃太おにーさんと紗雨たち、冒険者パーティ〝W・A〟におまかせサメエ」
パーテイを主導する立場にある額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は異世界クマ国代表カムロの直弟子であり、サメの着ぐるみを被った銀髪碧眼の少女、建速紗雨に至ってはカムロの養女である。
二人だってクマ国政府と敵対したい訳ではなく、むしろ力になりたいのだ。
だから、おでんという後ろ盾を得て、正式な依頼の元でテロリスト集団〝完全正義帝国〟に追われる避難民を助けに行けるのなら、これに勝る解決法はない。
「出雲様、紗雨姫。このような重大事を上司の方へ連絡もせずに決めないでください」
されど、異世界クマ国の防諜部隊に所属する鴉天狗、葉桜千隼は、背に生えた黒い翼を神経質にはためかせ、それでもと食い下がった。
「ウメダの里から正式な依頼を受けた以上、もう地球に戻れとは申し上げません。それでも式神なり遠隔〝通神〟なりで冒険者組合の許可をとってください。私たちが言うのも何ですが、今クマ国と地球の関係はこじれているんです」
千隼は、あくまでも主君であるカムロの命令を果たしたいようだ。
異世界を介する連絡は簡単なことではない。移動に時間のかかる式神に手紙を託すか、地脈が安定している時に使用可能な大規模設備を使う必要がある。
だが、それでは一刻を争うこの状況では、遅すぎるだろう。
「千隼さん、冒険者組合代表でもある、獅子央孝恵校長が既に〝前進同盟〟の過激派、ゼンビンとリノーを調査するよう命令を出しているよ。何があっても責任をとってくれるそうだし、俺はクマ国と地球のこじれた関係を修復する為にも襲撃された避難民を救出したい」
「出雲様。そ、それは、そうです、が」
千隼は、かつて八岐大蛇の首に憑依された七罪業夢に騙されて、地球日本からの使者である桃太いたち冒険者パーティ〝W・A〟と交戦した過去があり、その負い目もあってこれ以上強くは言えなかった。
「桃太君。葉桜さんの提案にも一理ある。私とリウがウメダの里に残り、冒険者組合との連絡役をつとめよう」
「はわわっ。本当はおじ様だけを置いて、うちも桃太お兄様達と一緒に行きたいです。でも、昨日の戦いで蒸気鎧は壊れたままですし、やむをえません」
桃太の上司であり、冒険者組合トップでもある獅子央孝恵が選んだ新メンバーの、呉栄彦呉陸羽が口添えするに至り、千隼もついに観念したらしい。
「わかりました。出雲様、私はカムロ様から御身と姫様が地球に帰るまで補佐するよう命じられています。各里との調整役も必要でしょう。ご一緒します」
あとがき
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