第64話 心中に秘めた怒り
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「その為に、俺サマは一〇年前のお家騒動で停戦旗を踏みにじり、凛音にも新人の冒険者どもを生贄にするよう強いた。そうだ、俺サマが――すべてを掴む!」
鷹舟が〝鬼の力〟の結晶たる〝赤い霧〟で作り上げた鬼の手は、広間の一角を埋め尽くすほどに大きい。
文字通りの魔手は、広場を飾る複数の石像を砕きながら、桃太を握りつぶさんと追い詰めてゆく。しかし。
「そんなものは、貴方の勝手な理屈だ。やるぞ乂、俺たち二人で奴の野望をぶっ潰してやる!」
「おうよ!」
桃太は、鷹舟のあまりに身勝手な言い分に激昂、腰帯に差した黄金色に輝く短剣を引き抜いた。
仮面となった乂と力を合わせ、青い風を発して〝赤い霧〟を吹き飛ばし、黄金の光で巨大な鬼の手をバラバラに引き裂いた。
「こ、小僧。今、何をやった? 我が秘奥を、鬼の手を解体したとでもいうのか!?」
「〝斥候〟職を舐めるなよ。タイミングさえ掴めれば、遠距離攻撃くらいバラして見せるさ!」
額に十字傷を刻まれた少年は喝破して、ざんばら髪の剣鬼に黄金の光を放つ刃を向ける。
「補給砦の、幸保商二さんが言っていた通りだ。三縞代表に粛清を唆したのはアンタだったんだな? リッキーや他の追放された団員はアンタの妄想のために殺されたんだ」
「妄想ではない。世を救う大義だ」
鷹舟は叫ぶも、想像もしなかった戦況に彼の被る鬼面が震え、冷や汗のような滴が落ちた。
平静を失った剣鬼の心を揺さぶるように、蛇の仮面となった乂が問いただす。
「鷹舟よ。リボン女も、自分が振った停戦旗も、孝恵代表が認めた正式なものだったと言っていた。お前、凛音の為と言い訳したが、自分が成り上がる為に、わざと無抵抗の二河家と五馬家を襲ったな?」
「大義の為の犠牲だ。……呉陸喜も、……瑠衣様や乂様も許してくださる!」
鷹舟のあまりに身勝手な言い分は、桃太だけでなく乂の怒りにも火をつけた。
「許すわきゃねえだろうっ。過去を心に秘めたのが、お前だけと思うな。五馬の家族と瑠衣姉さんの仇、ここで晴らす!」
桃太と乂。二人がまとう風と光は勢いを増し続け、鷹舟が再び太刀を取って放つ、赤い剣気波をも消し飛ばした。
「まさか、貴方様はっ! だが、それがどうした。俺サマは過去を決して忘れない。踏みつけてきたものの為に、奪ってきたものの為に、俺サマは王となり……この世を支配するのだ」
鷹舟は乂を認識してなお、迫る桃太をカウンターで仕留めようと腰を低くした。
「我が必殺剣は〝鬼の力〟をも喰らう。――鬼剣・〝七夜太刀〟!」
熟練の剣士は両足を化け物のように異形化させて、機械仕掛けの両腕を鳴らしながら、七回に及ぶ豪剣を放つ。
されど、〝鬼の力〟を吸い取る魔剣は、〝巫の力〟に支えられた桃太と乂には無意味だった。故に――。
「副代表。乂の言う通りだ。過去を背負っているのは、貴方だけじゃない。リッキーを殺された後、アンタと戦うことを何度夢見たと思う? もう一度言おう、〝斥候〟職を舐めるなよ。アンタが〝鬼の力〟を放つタイミングは、もう把握済みだ」
桃太は突き、払い、逆払い、袈裟斬り、逆袈裟斬り、切り下ろし、切り上げ、と、鷹舟の七斬すべてを左手に握る短剣で受け止めて、剣鬼の懐に飛び込んだ。
「鷹舟副代表は三縞代表に責任を押し付け、私利私欲の為に大勢の生命を喰らった鬼だ。だから、退治する」
「オレと相棒のコンビプレーだ。三分で充分だったな。さあ、一緒に地獄を楽しもうぜ!」
「「必殺、黄龍螺旋掌!」」
桃太の右手のひらから発した風と、乂が操る黄金の短剣から放たれる光が、二重螺旋を描きながら黄金の龍を象って飛翔する。
風と光は鷹舟を呑み込み、莫大な〝鬼の力〟を焼き尽くして。機械の義腕〝茨木童子の腕〟を爆音と共に粉砕した。
「ば、ばかなああああっ」
あとがき
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