第651話 冒険者パーティ〝W・A〟方針会議
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「千隼さん、俺は地球に帰るわけには行かなくなった。遥花先生、今から冒険者パーティ〝W・A〟の仲間を集め、今後の方針について採決をとります。でも、少なくとも俺と紗雨ちゃんは残る。乂やリンちゃんを見捨てて帰ることはできない」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は宿の広間を借りて、焔学園二年一組のクラスメイトを中心とする団員たちを集めた。
「皆に大切な話がある。聞いて欲しいんだサメエ」
サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨は、自身の養父であるクマ国代表のカムロ、潜入捜査中の幼馴染である五馬乂日本の冒険者組合代表である獅子央孝恵から送られてきた三つの映像を見せた。
そうして今後の評決をとったものの、全員の答えが一致していた。すなわち――。
「「五馬乂の救援に向かう」」
である。
「乂君とは、テロリスト団体に堕ちた〝C・H・O〟を相手にレジスタンス活動をやっていた頃からの長い付き合いだし、もちろん助けるのに賛成だよ。
そもそも冒険者パーティ〝W・A〟の上司は、獅子央校長よ。今のあたし達には、〝今回のクマ国内戦を企んだという、ゼンビンとリノーを調べる〟って大義名分があるもの」
「心紺ちゃんの言う通り、私達は乂君に多くの恩がある。
それに冷戦時代、今の地球の主流国と敵対して、異界迷宮カクリヨとの交戦で滅んだ国々の生き残りが〝前進同盟〟の一部をのっとって〝完全正義帝国〟を組織したのなら……。
放置した場合、地球にもどれだけ影響が出るかわからない。幸い、校長が全責任をとってくれるそうだから、すぐに調査に向かいましょう」
「BUNOO!」
サイドポニーの目立つ少女、柳心紺と、彼女の親友である瓶底メガネをかけた白衣姿の少女、祖平遠亜。彼女達の傍らに伏せた、八本足の虎に似た式鬼ブンオーは瞳にあかあかと闘志を燃やし……。
「わたくしと五馬乂さんは、あのこわーいビキニーマーの女性を相手に、八大勇者として肩を並べて戦った仲です。それに彼は〝前進同盟〟過激派に襲われた民間人を助けたのでしょう? すばらしい益荒男ぶりですわ」
「乂さんは、うちが元八大勇者のテロリスト四鳴啓介に〝蛇髪鬼〟ゴルゴーンへ埋め込まれた時、桃太お兄様と一緒に助けてくださいました。ご恩を返すのは今です」
赤い髪を二つのお団子状にまとめたグラマラスな少女、六辻詠と、山吹色の髪を三つ編みに結った小柄な少女、呉陸羽も、乂の救出にやる気満々で……。
「クマ国内部の問題ゆえに巻き込みたくないって、カムロさんの判断もわかるけど、ここで尻尾をまけば男がすたる」
「クマ国の方達は世話になったものね」
「そうだな。俺も力になりたいと思っている」
前衛部隊のリーダーである林魚旋斧や、遊撃隊を束ねる関中利雄、術師隊のまとめ役である羅生正之も方針が一致していた。
「皆様、困ります!」
だが一人だけ、冒険者パーティ〝W・A〟の方針に真っ向から異を唱えた者がいた。
異世界クマ国の防諜部隊ヤタガラスの小隊長、葉桜千隼である。
「ご厚意は嬉しいのですが、お客様方を我ら、クマ国の内戦に巻き込むのは本意ではありません。どうか地球日本へお戻りください」
あとがき
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