第650話 繋がり浮かび上がる真相
650
西暦二〇X二年九月一日。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨。
そして、異世界クマ国の防諜部隊ヤタガラスの隊員である鴉天狗、葉桜千隼は、自分たちを取り巻く危機的状況を把握し、愕然としていた。
「カムロ様、五馬乂様、そして、獅子央孝恵様。出雲様のところへ、発信時間とはちょうど逆の順番で情報が入ってきたのか。すべてが一本の線で繋がってしまった」
特に千隼は職務柄、衝撃が大きかったようで、長く伸ばした黒い前髪をせわしなくかきあげ、酸素を求めるように何度も呼吸する。
「この通り、急ぎの内容じゃなかったでしょう? 校長はこう言っているけれど、安全第一よ。調査は聞き込みに留めて、地球への帰還を目指しましょう桃太くん、紗雨ちゃん、葉桜さん顔色が悪いわよ」
一方、何もしらない女教師、矢上遥花は夏休みが終わった途端に新たな任務を命じる校長のやり方に眉をひそめ、赤いリボンで結んだ栗色の髪を背中に落としながら、フクロウを模した式神が発する映像を消した。
「遥花先生、相談があります」
「とても大事な話があるんだサメエ」
桃太と紗雨は、誤解を解くために一歩前に踏み出し、カムロと乂から預かった残り二つの映像を見せた。
遥花の言い分は、一時間前まであれば正しかった。だが今となっては状況が変わりすぎている。
「つまり、カムロさん、乂君、孝恵校長からの情報を時系列順にまとめると……。
地球の冷戦時代に異界迷宮カクリヨの侵攻に破れて、クマ国へ脱出した東側諸国出身者の子孫であるゼンビンとリノーが、クマ国の反政府団体〝前進同盟〟の過激派をのっとり、〝完全正義帝国〟なるテロ団体を組織した。
そして、今日の明け方、過激派の〝完全正義帝国〟は意に沿わない穏健派の〝前進同盟〟を攻撃し民間人を虐殺――。
オウモさんの部下になったという、一葉朱蘭様が子供達を逃し、潜入調査中だった乂君が保護した避難民を常葉山へ逃がした後、アシハラの里に向かう。
そして、カムロさんはヒスイ河で前進同盟に決戦を挑もうとしている。
と、とんでもない状況ね!?」
「「情報量が多すぎる」」
遥花の解説を受けて、桃太達は悲鳴をあげた。
「孝恵校長も、〝前進同盟〟内部の異常と〝完全正義帝国〟の暗躍に気づいていたのか。もう少し早く伝えてくれれば、いやギリギリ間に合ったのか」
「カムロジイチャンもきっと大事にしたくないから、乂を送り込んだサメエ。それにしてもアシハラの里をどうやって見つけたサメエ」
桃太と紗雨は深呼吸しながら、頭をかかえ。
「遥花先生。一葉朱蘭って、地球八大勇者パーティのひとつ、〝J・Y・O〟代表だった方ですよね? クーデターを引き起こした主犯の一人なのに、逮捕はされていないんですか?」
「指名手配はされたけど、異界迷宮カクリヨへ逃げ込んだから逮捕には失敗したみたい。だからって、前進同盟に入っているだなんて」
千隼と遥花も問題のややこしさに重い息を吐く。
「出雲様、紗雨姫。カムロ様は元地球人の……〝完全正義帝国〟との争いに、お二方を巻き込みたくないのでしょう。安全のためにどうかおかえりください」
「桃太くん、紗雨ちゃん。千隼さんはこう言っているけれどどうするの?」
千隼の要請と、遥花の疑問に対し、桃太と紗雨は迷わず答えた。
「千隼さん、俺は地球に帰るわけには行かなくなった。遥花先生、今から冒険者パーティ〝W・A〟の仲間を集めて今後の採決をとります。でも、少なくとも俺と紗雨ちゃんは残る。乂やリンちゃんを見捨てて帰ることはできない」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)